つまり法律問題、倫理的問題、社会的問題、プライバシー問題……技術があったとしても、さまざまな理由により思いの外人工知能が広がらない業界があるのです。
しかし「規制のせいで素晴らしい人工知能が浸透しない」と斬って捨てるのは傲慢(ごうまん)な気もします。いつの時代も、転換期には「新しい技術」に対する本能的な防御心からか、多少の摩擦を起こしながら、それでも新しい社会の扉が開いてきました。
無用な摩擦を避けるためには、転換する側の工夫も必要になるでしょう。例えば2017年2月に人工知能学会が発表した人工知能の研究開発に対する倫理指針でも、この問題について触れられています。この指針は「倫理」という名前こそついているものの、実際に読むと「社会との不断の対話」が強調されていることが分かります。見方を変えれば、「研究者は人工知能開発に対する説明責任を負うべきである」とも読めます。
技術はあるのに、それを使いこなせない社会や法律が悪い。そのような態度では、永遠に社会と分断されたままでしょう。人工知能が社会に受け入れられる努力を作る側は怠ってはいけないと私は考えます。
私たちに求められる「中庸」
極端な人工知能論に振り回されないため、1つの方向、1つの目線だけで語らないため、妄想を抱かないため、今必要なのは「中庸」だと考えています。
中庸には真ん中や平均という意味ではなく、全ての状況を融合させた求心点という意味があります。つまり情報の幅を広げ、賛成派だけの意見、反対派だけの意見に求心点を傾けるのではなく、双方の主張に耳を傾け、偏った理解をしないことが大事です。
4月に刊行した「AIは人間の仕事を奪うのか? 〜人工知能を理解する7つの問題」では、人工知能にまつわる働き方、ビジネス、政府の役割、法律、倫理、教育、社会、7つの話題について、それぞれ肯定的、否定的な見方を紹介しています。
捉え方によっては、自分の意見が無い著者に見えるかもしれません。しかし、法律面では賛成30%、反対70%だけど、倫理面では賛成80%、反対20%と、もっとファジーな発想を持たなければ、目まぐるしく変化する人工知能を捉えきれないでしょう。
本書は2017年夏から2018年冬にかけての人工知能を理解するのに役立つ書籍の一つになると思います。中庸な人工知能本といえば地味に聞こえますが、本質を理解するのに派手である必要はないはずです。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
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