定年を正しく理解し、その対応を間違わないように:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
人生は登山のようなものである。上りは苦しいが頂上という目標がある。下山は達成感があり、楽だし、景色も楽しめる。定年は頂上で中間点である。楽しく下山するためにはどのように過ごせばいいのだろうか?
話を聞くと、10年近く前に、ソニーの希望退職制度を利用して退職した。就業した先の会社が、5年ほどで、経営不振になり退職した。私の会社に相談に来たのはその時で、その後自分で見つけた会社に就職した。担当の職務は新製品の開発である。60歳になったが、会社から、今の仕事を65歳まで継続してほしいと言われた。給与も仕事の内容も同じなので、それを受けることにした。あと5年は大丈夫です、ということで、お礼に来ました、と菓子折りをだされた。
私もびっくりしたし、うれしかった。あと5年たったら、近所のスーパーで、荷さばきの仕事をしようと思っています。いつも求人していて困っているようだし、体力にはまだ自信がありますから、と話す。その後も、まだ働くつもりらしい。なぜ私のところに、お礼に来たかというと、以前私の会社に来た時にアドバイスされたことを実行したら、うまくいきました、全て郡山さんのおかげです、という。
何を話したかは覚えていない。おそらくいつもの、自分の人生は、自分で設計して作っていきなさい。高年齢になったら、仕事は自分で探すしかない、できること、やりたいこと、をしっかり決めて、安い、辞めない、休まないを売りものにして、来てくださいというところがあったら、迷わずに飛び込む。仕事を大事にして、周りの人たちの喜ぶ顔が最大の報酬と思って、楽しく毎日を終えるようにする、いかがでしょうか、という話を、いささか人生の先輩顔でしたのかもしれない。
これは、私は、定年後の成功例の一つだと思う。高年齢者は多様性があり、一般論にはしにくい。
ただ、成功例には少し共通点がある。それは、過去と、完全に切れていることである。逆に失敗例の多くは、過去に振り回されている。「過去には何の価値もない。現在を未来のために使うしかない」というのは、ソニーの共同創業者、盛田昭夫の名言である。
定年は確かに来る。それは終点ではなく、通過点である。そこまできたら、過去ではなく未来を語ろう。その未来を、楽しく、面白いものにするために、十分に準備しておこう。
私自身は、準備をしておかなかったために、決して順調ではない、定年後を過ごした。そして今、少し定年後を理解したおかげで、定年前より幸せになっているように思われる。私の体験と意見を書いた小さな本で、少しでも、皆さんのお役に立てれば、望外の喜びに違いない。
著者プロフィール:郡山史郎
1935年生まれ。CEAFOM代表取締役社長。
一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て、1959年ソニー入社。73年米国のシンガー社に転職後、81年ソニーに再入社、85年取締役、90年常務取締役、95年ソニーPCL社長、2000年同社会長、02年ソニー顧問を歴任。04年、プロ経営幹部の派遣・紹介をおこなう株式会社CEAFOMを設立し、代表取締役に就任。人材紹介のプロとして、これまでに3000人以上の転職・再就職をサポート。著書に『九十歳まで働く!』(WAC)などがある。
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