最後に確認のためソラ・アメ・カサの3つの要素を並べてみます。
ソラ「空を見ると曇ってきた(事実)」
アメ「雨が降りそうだ(解釈)」
カサ「傘を持っていこう(判断)」
こう言われると素直に違和感なく頭が整理され、自然に正しく判断できます。ソラ・アメ・カサで相手に話すと正しく伝わり、判断してもらえます。
そう、物事を決めるには「伝えることを話す方が決める」「聞いた内容で相手が判断する」の2段階があります。このプロセスは外せません。この2段階をソラ・アメ・カサは1つのツールで行えるので優れたツールなのです。
ソフトバンクの孫正義氏を含め、経営者が重要な意思決定を行うには、「ソラ」「アメ」「カサ」の3つがセットでないと行えないといいます。
キーになるのはアメ(解釈)です。事実をどう解釈するかで想定されるゴール像が変わります。ゴール像が変われば打ち手の判断も変わります。事実の解釈により、アメは無数に存在します。しかし、アメは日本語のやりとりをしている時は省略されてしまいがちなのです。つき合い始めのカップルの会話例で見てみましょう。
「夜空がきれいだね」
「うん、そうね」
一見通じているように見えるでしょう。しかし、突っ込んでみると「星がたくさん出ていてきれい」「満月が大きくくっきり見えてきれい」「夜空に関係なく実は浴衣姿の君がきれい」など、同じ夜空という事実は一緒でも、解釈により、きれいと感じるところが違うことは日常的に発生します。
- 事実は「どこに焦点」を当てるか
- 焦点を当てた事実を「どう解釈」するか
プライベートならまだしも、この解釈のズレはビジネスでは致命傷になることがあります。 解釈のズレは上司や取引先とのやりとりの中で多く発生するので注意が必要です。
ソラ(事実)「加湿器が欲しいというお客さまが来た。相見積もりして安い方を買うと言っている」
アメ(1)(解釈)「壊れず長期間、安定的に使える商品を望んでいそうだ」
アメ(2)(解釈)「経費予算がなく、価格が安い方を選択せざるを得ないのかもしれない」
アメ(3)(解釈)「加湿器だけでなく、実は保湿機能付きを欲しいのかもしれない」
アメによって、それぞれ打ち手も変わります。(1)であれば「品質がよく壊れないのでランニングコストを考えて10年使うならお得」という提案が考えられます。
(2)であれば、「安く導入してもらい、部品や手入れなどのメンテナンスコストで調整して回収する」となるでしょう。(3)になると、加湿器が欲しい理由を確認する必要がありますが、仮に喉が弱くいたわりたいのでしたら、加湿と保湿機能に加えハウスダストやカビ除去ができるクーラーなどの製品を提案する方向が見えてきます。
ソラ・アメ・カサを身につけるのは簡単です。「ソラ」「アメ」「カサ」の3つがそろっていればいいのですぐ習慣化できます。
実は、この3つというシンプルな構造がいいのです。人はたくさんのポイントを言われると記憶できず判断ができません。「ポイントは7つあります」と言われても実際は覚えられないでしょう。「ポイントは3つまで」と心得ておけば、相手にも理解されやすくなります。そして、「ソラ・アメ・カサ」はそれにぴったりだということです。
ソラ・アメ・カサは順番ではなくセットです。「結論から話せ」と言われれば、カサから話してからアメとソラを伝えればいいなどコミュニケーションの効率がぐっとあがります。
報連相はあなたもご存じでしょう。報連相をしても「意図と違う」と怒られる。上司や先輩の指示が間違っていて「報連相できてない」と怒られた経験は誰しもあることです。その原因はソラ・アメ・カサで考えれば一発です。報連相は全て「ソラ」。上司がアメを洞察し、打ち手である「カサ」を指示するので「アメ」の解釈があなたに伝わらず、解釈や意図のズレが発生してしまうのです。アメを確認すれば一発で報連相も問題も解決します。
というように、ソラ・アメ・カサはコミュニケーションのヌケ・モレ・ズレをなくすだけではなく、報連相をはじめとしたマネジメント上の課題解決も簡単に行える万能ツールなのです。
この本は現場でよく起きるコミュニケーションが難しい場面をソラ・アメ・カサで解決する、そのコツと事例をたくさん紹介し、すぐ活用できるようにしてあります。加えて、頭を悩ますマトリクスなどのチャートもソラ・アメ・カサを基軸にすることで誰でも簡単にできる方法も解説しました。トラブル発生、PDCAが機能しないなどマネジメント面でしんどい場面をさらりと整理して乗り越える方法を解説しました。ぜひ、あなたもソラ・アメ・カサを手に入れ生産性をラクして速く手に入れてください。
著者プロフィール:松本利明
人事戦略コンサルタント HRストラテジー代表 日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
PwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。日系・外資系の大企業から中堅企業まで600社以上の「人事」と「働き方」改革を実施。5万人のリストラと6000人以上のリーダーの選抜と育成を行った「人の目利き」。
『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)、『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)もベストセラー。英国BBC、ロイター通信、日経、AERA、週刊SPA!などメディア実績多数、講演多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 人とは違う生き方をしよう
- 2つの曖昧を具体的にして、できる人になる
- 言葉の使い方次第で儲かったり損をしたり
- 優秀な人を採用したがるのは、三流社長のやることだ
- 創業43年目で株価が最高値を更新中〜世界最大のソフトウェア会社、マイクロソフトに何が起きたか?
- 油まみれの鉄工所がなぜ、ディズニー、NASAから認められたのか?
- 副業の時代。運だけで、1000万円は稼げる
- 忙しいビジネスパーソンのための「ルーティンづくり」の勧め
- 人生100年時代! 仕事を続けられる人になる3つのポイント
- 結局Focus&Deepが重要
- 理不尽が多い人ほど、うまくいく
- スケジュールは、未来の予想図であり、出世の計画書だ
- 定年を正しく理解し、その対応を間違わないように
- 「マジメ」から「クリエイティブ」へ――どうすればクリエイティブになれるのか?