慰め・脅し・励ましよりも、生きる誘惑で、人は変わる:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
自分が落ち込んでいる時も、落ち込んでいる人を助ける時も、生きる誘惑とどのように出会うかが一番大切。
はたらく人は、生きる誘惑に出会うことです。リーダーは、メンバーに、生きる誘惑を与えることなのです。
教えているのではない。人生を変えているのだ
リーダーは人を教える仕事をしています。同時に、リーダーは人に教わる立場でもあります。両方で意識しているのは、「自分は教えたり教わったりしているわけではない」ということです。
レナード・バーンスタインは、売れっ子作家になって、アメリカ人で初めてニューヨークフィルの総指揮者になりました。『ウエストサイド・ストーリー』で、彼の映画音楽もはやりました。ルックスもいいから、モテモテです。映画音楽・作曲・指揮・教育・講演・デートと、超多忙です。そんな中で、バーンスタインはサマーキャンプでティーチインをする機会がありました。
指揮者を目指す大学生ぐらいの若い子たちに授業をするのです。授業の途中で、「レナードさん、そろそろ次の仕事に行きましょう。時間もオーバーしているので、教えるのはその辺にしておいてください」と言われました。
その時、レナードは「I am not teaching. I am changing his life.(僕は教えているんじゃない。彼の人生を変えているんだ)」と言ったのです。それを言われたのが、今、NHK交響楽団の初代首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィです。
レナード・バーンスタインは、テクニックを教えているのではありません。「指揮は楽しいぞ」という誘惑をしたのです。どんな分野でも、難しさより楽しさを教えることが大切なのです。リーダーが、生きる誘惑をすることで、部下の人生をかえることができるのです。
生きる誘惑をしてくれるのが、すぐれたリーダーだ
いいリーダーに出会うことは大切です。これが「師匠運」です。いいリーダーは、人生を楽しんでいる人です。
リーダーを見ると、「こんなふうに人生を楽しむためには、どうしたらいいのか」「この人は、どうやってそんなに楽しんでいるのか」と思います。
これが教わるということです。「勉強しろ」と言うだけがリーダーではありません。「勉強しなければ人生つらいぞ」とか「格差社会で生きていけないぞ」とか、そんなことは一切言う必要はありません。
その人が楽しそうにしていたら、みんなはその人から何かを学ぼうとするのです。
中谷塾で、ダンスを習い始めた塾生がいます。パーティーのための練習として、女性をフロアまでエスコートしてもらいました。彼がドギマギしながら練習しているのを見て、ダンスをしていない男性の塾生が、「やっぱりダンスは難しいですね」とため息をもらしました。
そこで、私がお手本を示して、エスコートする通路でスピンして女性をクルッとまわしました。その時点で女性の目がハートマークになっています。女性だけでなく「難しそうだな」と言っていた塾生が、いきなり「やります」と言い出しました。「だって、あれができたら、なんでもありじゃないですか。そんなことができるんですか」と、驚いていました。
これが「あの人は楽しそうだな」ということです。
『エースをねらえ!』で、岡ひろみが県立西高に入った時は、テニスをしたいとは少しも思っていませんでした。そもそもテニスに興味があったわけではありません。お蝶夫人を見て、「すごい人がいる」と憧れて、「テニスをすれば、ああなれるんだ」と思ってテニスを始めたのです。
人に憧れるモチベーションは大きいです。テニスに憧れて、実際に始めると思ったより難しいし、最初は球拾いしかさせてもらえません。「これは違うな」と思って、やめてしまいます。何かを始める時に、そのことに憧れるのではなく、そのことを楽しそうにしている人に憧れる方が続くのです。
私の大学時代の恩師は西江雅之先生です。西江先生は博覧強記です。「この人の頭の中はいったいどうなっているんだろう。こんなふうになりたいな」と思ったことが、私の勉強するモチベーションになりました。
人間は楽しそうな人に憧れます。楽しそうにしている人が、リーダーなのです。
著者プロフィール:中谷彰宏・作家
1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。
【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー、ワークショップ活動を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気づきを促す、全員参加の体験型講義。著作は、『生きる誘惑』(きずな出版)など、1070冊を超す。
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