もうひとつのMaaSがもたらす製造業の構造変化〜データ駆動型B2Bシェアリング経済の台頭〜:視点(2/2 ページ)
Manufacturing as a Serviceの最終形はまだ流動的だが、さまざまな領域のIIoTを統合するサービスを形成すべく、機械製造設備メーカー、大手システム事業者、ソフトウェア企業の三者協働が進んでいくだろう。
MaaSの提供価値の一つはクラウド上の製造基盤共有にある。顧客企業は、IIoTを介して製造機能提供機能(OEM)と即時にコミュニケーションでき、グローバルに分散した製造プロセスの進捗常時監視も可能となる。
データ駆動型MaaSの誕生
MaaSの進展は、顧客企業とOEMおのおののコアコンピタンスへの注力を加速する。顧客企業は製品開発やマーケティングに、OEMは資材・部品調達の最適化、工作機械の調整やメンテナンス効率化に集中できる。OEMにとって、多くの顧客企業からの受注は工作機械の稼働率向上をもたらす。顧客企業単独では到達しえない膨大なデータを蓄積できる。そのデータ分析を通して、製造効率や製造品質を最適化するパラメーターを把握でき、遠隔操作やメンテナンス予測といった新たな事業を生み出すことも可能になる。いわば、データ駆動型MaaSだ。
実際、Siemens, Heller, Schuler, Buehlerといった企業は、IIoTの試験フェーズを終え、“Make Digital Transformation Tangible”、具体的成果創出に向けたデータ駆動型MaaSに本腰を入れ始めた。
IIoTプラットフォーム構築に向けて
工作機械メーカーにとって、IIoTプラットフォーム立上げの鍵は、(1)単一機能(例:調達)に特化せず、顧客企業にとってのワンストップ性を追求するとともに、既存顧客との関係性深化にのみ注力することなく、顧客基盤の徹底拡大を図ること、(2)データ駆動型事業モデルを提供できるデジタルマインドセット、具体的には、顧客起点思考やトライアル&エラーを受け入れるとともに、知的財産の取り扱いなど、企業間協業促進に向けた実務レベルでの障害を取り除くこと、(3)共通インタフェースの標準化(例:UMATI(Universal MAchine Tool Interface))を促進するとともに、通常10年超という製品ライフサイクルの長い工作機械業界の特徴を踏まえたレトロフィット(新しい製品と古い製品を融合して機能向上させること)を可能にすること、が挙げられる。
現在、世界にはおおよそ450のIIoTプラットフォームがあるといわれる。これらのプラットフォームは今後相互連携を強め、クロスベンダーの統合プラットフォームに進化し、レイヤー構造化が進むだろう。製造業におけるデータ駆動型B2Bシェアリング経済に乗り遅れることのないよう、日本の製造業各社にも、向こう10年間を見据えた行動を期待したい。(図A2参照)
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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