コロナ禍がVUCAの世界を増長するいま、新規事業創造でもっとも大事なのは感性を信じること:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
新型コロナウイルス禍において、多くの製造業で生産量が大幅に減っている。この現状から脱却するためには、小さなことでも一つ一つ積み重ねながら創造生産性を向上していくことが重要になる。
引き寄せの事例として、フォルクスワーゲンでは、自社の世界観や技術を発信、開示することで、メルセデス・ベンツやBMWなどの競合メーカーはもちろん、政府も巻き込んで、次世代技術の統一規格実現に取り組んでいる。またシャオミでは、製品開発において週次のPDCAサイクルを実現。顧客との対話で収集した生の声を生かし、1週間での製品改善を繰り返すことで、顧客が求める真の価値の提供を可能にしている。
構えの事例として、フォルクスワーゲンでは、モジュール戦略を展開。性能や機能が異なるモジュールを複数用意しておくことで、モジュールの組み合わせを変更するだけで、価格帯や装備の異なる車を開発できる。マクドナルドにおいても、モジュール化は重要な武器である。例えば、ブラックサンダーやミニオンなどの社外のモジュールと、社内のモジュールを組み合わせることで、顧客に提供する価値を高めている。
長島氏は、「構えでは、製品だけでなく、社内外の人材のユニークな能力をモジュール化、見える化しておくことで、対話を通じた組み合わせにより新たな価値を創出することもできます。人の能力は、製品やサービスと違いリードタイムが不要なので、現在のコロナ禍のように世の中の状況が読みにくい状況においても、人材の能力で新たな価値を創出することができます」と話している。
重要なのは小さい事業から始めること
由紀ホールディングス、慶應SFCが主導し、2020年4月に、現場起点のIoT人材の育成・資格認定を目的とした一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会(FS協会)を設立。長島氏は同協会の理事を務める。2020年度末までに、100人以上のファクトリーサイエンティスト(FS)の育成を目指している。FSは、課題の抽出から計画立案、課題解決、報告までの一連の活動を一気通貫で担える人材であり、小さな課題から挑戦し、次第に大きな課題へと取り組みを広げられる人材である。
長島氏は、「手触りのある工場のIoT化を、現場起点で実装できる人材がFSです。FS協会では、センサーなどによりデータを取得する能力、取得したデータをクラウド上で分析する能力、分析の結果を経営に生かす能力を有するFSを、5年後には4万人育成することを目指しています」と話す。そのためにFS協会では、FSが現場ですぐに使えるデバイスやサービスなどの「ありもの」を準備し、みんなのアセットにする。
FS協会が、世の中に存在する、すぐに使えるデバイスやサービスなどの「ありもの」をリスト化し、原理原則を身につけたFSが、ありものを組み合わせて、新しいソリューションを次々に実装することで、創造生産性が向上するとともに、その過程で新たな「ありもの」が生み出される良循環を実現できる。量産された創造生産性の向上は、事例としてオープンに共有される。
「重要なのは、小さい事業から始めることです。時間と工数をかけて大きな事業を始めるのではなく、ありものを組み合わせ、そこに少し新しいものを加えて、どんどんスタートします。小さな事業を積み重ねることで、価値を最大化していきます。スモールトライアルのメリットは、もし失敗しても被害を最小限にできることです。また、社内外での認知、評価により、組織全体のやる気を刺激することも必要です」(長島氏)。
コロナ禍を切り抜けるための思考と実践において、いまから備えるべき7つの資質は、以下の通りである。
(1)異質や違いを好む
(2)使いやすい能力・機能を持つ
(3)対話の場を温める
(4)ありものを使い倒す
(5)顧客のマインドシェアを高める
(6)既存のルールをいったん忘れる
(7)感性を信じる
長島氏は、「和ノベーションを実践する場合、人材のネットワークが広がるほど生み出せる価値を大きくできます。そこで(1)異質や違いを好むことが重要です。いろいろな人が集まると、専門用語だけでは対話ができないことがあるので、(2)使いやすい能力・機能を持つことも必要です。このとき(3)対話の場を温めることで、より効果的な対話が可能です。小さく始める場合、(4)ありものを使い倒す、(5)顧客のマインドシェアを高めることも重要。そのためには、(6)既存のルールをいったん忘れることで、もっとも大事なのは(7)感性を信じることです」と話し、講演を締めくくった。
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