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第2回 ドラッカー「部下と上司はお互いに考えが違う」ドラッカーに学ぶ「部下を動かそうとする考えは時代遅れ」(2/2 ページ)

時代の変化の中にあって、部下はどうあるべきか。そして今、上司に求められているものは何か。上司と部下は、お互いどんな関係でいるべきなのだろうか。

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 分かり合えているという錯覚、分かっているだろうという思い込みが、上司と部下の関係を悪化させる。まず上司側から、部下とはお互いに考えが違うという事実を受け入れ、お互いに考えの違いを見つけ合う努力をしなければならない。具体的にどうすればいいのだろうか。上司として何をすればいいのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

「委譲した権限の内容、目標、期限を明確にしなければならない。委譲した者と委譲された者の間に期待と責任についての理解がなければならない。」

部下に重要な仕事を任せられない

 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」この言葉はあなたもご存じのはずだ。続きがある。「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」さらに続きがある。「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」

 ある程度、部下に任せているという上司も、「具体的に何を任せたのですか」と尋ねると、歯切れの悪い答えしか返ってこない。同じように、部下に「上司から何を任せられたのですか」と尋ねても、具体的な答えは何も返ってこない。

 「任せた」「任せられた」という言葉があるだけで、現実は、上司は部下に何も任せていないし、部下も上司から何も任せられていない。これでは、部下は責任をもって仕事にあたることはできなし、成長することもできない。「任せてやらねば、人は育たず。」「信頼せねば、人は実らず。」だ。

準備できていない上司

部下に重要な仕事を任せるべき時期が来ると、部下に大きな仕事を与えたり、重要な分野を任せたりすることのできない理由を見つけ出す。しかしこれは、上司が「部下に重要な仕事を任せる準備ができていない」のだ。

 ドラッカーはこう言っている。

「変化すべき時が来ると、部下に大きな責任を与えたり、重要な分野を任せたりすることのできない理由を見つけ出す。最高だが準備ができていないという。だがこれは、まさにトップ自身に準備ができていない証拠である。」

 このドラッカーの言葉は、トップ向けに言っている内容であるが、上司向けのものとして受け止めたい。ここでドラッカーが言う、「最高だが準備ができていないという」その意味は、自分の部下のことを、「彼は最高の仕事をしてくれるが、まだ大きな責任を任せるわけにはいかない」という上司としての主張を表している。つまり、部下に仕事を任せられない理由を正当化しているのだ。ドラッカーは上司の弱さをそう指摘している。

部下に責任と権限を与える

責任と権限を与えないと何が起こるのか

 前回、「部下に責任と権限を与えなければならない」という趣旨の話をした。責任と権限を与えるとはいったいどういうことだろうか。具体的に何をすればいいのだろうか。

 ある会社でイギリスの市場の拡大を命じられたマーケティング担当者がいた。その人は、マーケティングの担当でありながら、商品を選び、価格を決める権限は何も与えられていなかった。そのため、上司に顧客の状況を説明し、何をするにしても、逐一、上司の了解を得なければならなかった。担当者の彼は、仕事をするうえで必要な権限が与えられていなかった。責任を与えられていなかったのだ。本人も、「上司は私に任せたと言っていますが、私は何も任されておりません」と言っていた。

 その担当者は、イギリスで顧客の拡大が実らないのは、「自分の仕事のやり方」のせいではなく、「上司が市場を十分に把握できていないからだ」と考えていた。当然、自分の仕事のやり方を改善しなければならないという考えは起こらない。

地位ではなく責任

 部下がどんなに優れた知識を持っていたとしても、何の責任も与えられない状態で成果をあげることはできない。では、どうすればいいのだろうか。成功の鍵は何だろうか。

ドラッカーはこう言っている。

「成功の鍵は責任である。自らに責任をもたせることである。あらゆることがそこから始まる。大事なものは、地位ではなく責任である。責任ある存在になるということは、真剣に仕事に取り組むということであり、仕事にふさわしく成長する必要を認識するということである。」

 責任を与えるとは、「最終責任は自分にあると思えること」であり、権限を与えるということは、「重要な決定をできるようにすること」だ。

アクションポイント

 1、理解をつくり出す

 お互いが成果をあげ、良好な関係でいるために、「あげるべき成果、目標、期限について、ぜひ上司と部下で確認し合ってみてほしい。あらためて確認の場を持つと、「こんなにも考えに違いがあったのか」とがくぜんとするはずだ。

 2、昨日の自分と決別する

 行き詰ったときこそ、変化すべき時だ。そのときこそ、部下に大きな責任を与え、重要な分野を任せよう。分かり合えているという錯覚、分かっているだろうという思い込みを手放せば、新たな道が開ける。

著者プロフィール:山下淳一郎 ドラッカー専門の経営チームコンサルタント

ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント

東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。 

著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。


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