若手人材の早期離職を解決! 部下を活かすマネジメント“新作法”とは:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
現状を聞き分析する中で分かったのは、企業側が若者の真の離職理由を捉えきれていないこと。いったい何が食い違っているのだろう。なぜ若者はすぐに辞めてしまうのだろうか。
《マネジメントの新作法(1)》上司は管理職から“支援職”に役割を変える
第1は、直接の指導役である上司やOJTリーダーの役割を、管理職から“支援職”に変更することです。会社からの指示・命令を完遂させるマネジメントから、若手社員側のキャリア希望を受け止め、それを組織貢献できる役割に結合させ、自発的な働きを促すリーダーシップにシフトするのです。具体的には、直属の上司やOJTリーダーが若手社員と育成のための定例ミーティングを設定したり、業務日誌やメール日報を交換したりするなど、若手社員の側から気軽に発信し、相談しやすい報連相の機会をつくることです。
その際、上司側が心掛けるべきは「アドバイスよりまず傾聴」の姿勢です。これまでの上司像であれば立場上、若手社員に対して一方的な指示・命令をしがちです。必要なOJTをしっかり行うことは大切ですが、指示・命令が先行すると若手社員は次第に萎縮し、発言を遠慮するようになります。そうなると、職場や仕事に対するリアリティショックや不安・不満も内面に溜め込み、相談の機会を失い、ひいては離職につながってしまうのです。未然に防ぐためには意図的な傾聴の機会づくりが必須になるのです。
実は、傾聴とは単にじっと聴くだけでなく、アクティブリスニング(積極的な聴き取り)を意味します。その真価は相手を受け入れつつ深く考えさせ、主体的な意見や行動を引き出すことといえるのです。
《マネジメントの新作法(2)》若手には早期に顧客満足や地域貢献につながる仕事を体験させる
第2は、若手社員には早い時期から、成長の可能性や働きがいを感じられる仕事を経験させることです。マーク・モーテンセン・INSEAD准教授とエイミー C.エドモンソン・ハーバード・ビジネススクール教授は、人材獲得競争に勝つためには4つのファクターが求められるとしています。人材を惹き付け、離職を防ぐために、短期的には「物理的な待遇」「つながり・連帯」が必要ですが、長期的には「能力開発・成長の機会」「意義・パーパス」が必要です(『ハーバード・ビジネス・レビュー』2023年5月号「人を惹き付け、離職を防ぐ 従業員価値提案を見直すべき時」)。まさに私の考えとも一致します。
優秀な若手社員ほど、現在の仕事を通じた成長の機会と働きがいをどれだけ得られるかに強い関心を持っています。また、平成生まれの若者は、災害救援や国際貢献などの多様なボランティア活動を頻繁に見て育ったため、社会貢献への意欲が強く、仕事の意義や意味に対する意識も高いのです。そのため、上司には”仕事の意味づけ力”を高めることが求められているのです。
留意すべきは、成長意欲の高い若者は単に「働きやすい職場」を心地よく感じていないことです。近年、働き方改革が進む中で、時間外労働の規制や年次有給休暇の取得促進、育児・介護と仕事との両立支援など、働きやすい職場環境づくりが進んできました。しかし、いくら労働条件は良好でも自らが成長できない「ぬるま湯企業」は敬遠されるのです。ここは、一律の働き方改革関連法施行を断行した国の責任が大きい。
ある食品製造・販売会社では、若手社員の離職に悩んだ末に、仕込み補助や後片付けなどの下働きで育成してきた旧弊を改めました。若手社員の憧れである花形商品の製造と、その商品をお客さまに直接提供し喜んでいただく瞬間に立ち会うという第一線の仕事を体験させることにしたのです。その結果、早期離職は大幅に減ったといいます。若手社員は自社のパーパスを知り、自社の仕事に働きがいと希望を感じ、日々の仕込みの仕事に励むようになったからです。
皆さんの企業現場でも、若手社員に仕事の下働きばかりではなく、働きがいを感じられる花形仕事を思い切って任せ、体験させることです。若手社員だけで難しければ、先輩社員のサポートをつけることも有効です。若手社員に早期に働きがいを体験させることで、職場と仕事へのエンゲージメント(会社への愛着・業務に対する意欲)を高めることができるでしょう。
本稿で取り上げた若手の早期離職を解決するための“新作法”は、人的資本経営時代に求められるマネジメントの一例です。経験によって染みついた古いマネジメントの“非常識”を乗り越えるための新しいマネジメントについてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政、2023年9月発行)」をぜひご参照ください。
著者プロフィール:前川孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
人を育て組織を活かす「上司力R」提唱の第一人者。30年以上一貫して働く現場から求められる上司、経営のあり方を探求している。1966年兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て、2008年にFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業・出版事業を営む。「上司力R研修」シリーズなどで400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。
著書は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』『50歳からの幸せな独立戦略』『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(共にPHP研究所)など37冊。
最新刊は『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政、2023年9月発行)
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
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