文章を書くのが苦手な人が、スラスラ書けるようになる方法:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
書く仕事を始めた頃は、200文字のコピーを書くのに1日かかっていた。しかし、今は1日2万字書くこともある。いったい、何が起きたのか。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
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「ライターの仕事をしているのだから、昔から文章を書くことが得意だったのでは?」
そんなふうに聞かれることがよくあるが、実はまったく違う。むしろ書くことは、嫌いで苦手だった。もともと興味を持ったのは、広告の世界のコピーライター。文章を書くのではなく、言葉を見つける仕事だと思っていた。ところが、私が担うことになったのは、採用広告だった。カッコいいキャッチフレーズ1本、というわけにはいかない。必然的に、たくさんの文章を書かないといけなくなった。
書く仕事を始めた頃は、200文字のコピーを書くのに1日かかっていた。しかし、今は1日2万字書くこともある。いったい、私に何が起きたのか。それを知ってもらいたくて書いたのが、『文章がすぐにうまく書ける技術』(日本実業出版社)である。
まったく書けなかった私が、なぜ書けるようになったのか。スラスラ書くには何が必要なのか。もとより文章や文法に関する本など、私は一度も読んだことがない(読んで書けるようになるとはとても思えなかった)。それなのに書けるようになった理由とは何か。それを「マインドを変える」「書く前を変える」「書き方を変える」の3つのステップで紹介している。
私がそうだったように、文章が書けない、書くのが苦手だ、と悩むビジネスパーソンは少なくないようである。書けないわけではないが、とても時間がかかってしまう、という人も多い。メールにメッセンジャーに企画書にレポート……。今の時代、文章力はビジネスの効率や成果を大きく左右する。「すぐにうまく」書けることは、大きな武器になる。
本書の大きなポイントは、もともと書けなかった私が、書けるようになったプロセスを記していることである。世の中には、もともと文才を持っている人がいる。そういう人には、書けない人の気持ちは分からない。特に練習しているわけでもないのに速く走れる人がいるように、何も意識せずとも書けてしまう人がいるのだ。そういう人を見てはいけない。そういう人のまねをしてはいけない。
まずは、マインドを変えることから。よくよく考えてみると、文章について学んだのは、ほとんどの人が小学校である。以来、書き方は学んでいない。実は、書けないのは当たり前、というのが私の認識である。教わっていないからだ。
しかも、最後に教わった小学校の作文とは、どのようなものだったか。国語の教科書には評論や文芸の作品が掲載され、それがお手本だった。立派な文章、美しい文章が求められたし、そういう文章が先生から評価された。
しかし、ビジネスの世界ではどうだろうか。誰が立派な文章を求めているか。美しい言い回しが盛り込まれた文章を読みたいと思っているか。そんなものはいらないのである。起承転結もいらない。結論がいつまでも出てこないような文章は、むしろビジネス文書では失格だろう。早く結論が知りたいからだ。
なのに、立派な文章を書こうとしてしまう。気の効いた言い回しを探そうとしてしまう。表現を考えようとしてしまう。だから、言葉が見つからなくて筆が進まなくなる。
まず必要なのは、「立派な文章などいらない」というマインドセットなのだ。ビジネス文書で求められるのは、何より「分かりやすさ」である。ややこしい表現など、まったくいらない。それよりも、分かりやすい文章、理解しやすい文章が求められるのだ。
そして「書く前を変える」。端的に言えば、素材を準備する、ということである。というのも、文章は素材でできているからだ。とりわけビジネス文書はそうである。ビジネス系の文章を改めてじっくり眺めてみると、文章が素材からできていることに気付ける。新聞しかり、Webサイトの記事しかり、だ。実は表現などいらないのである。
では、それを書いている記者は何をしているのか。まずは取材などを通じて素材を集め、メモしているのだ。そこから文章が書かれていく。かつて記者はみなメモ帳を手にしていた。今はICレコーダーだろうか。その記録こそが、文章の素材なのだ。
彼らは文章を書くプロだが、彼らがやっていることをほとんどの人がやっていない。つまりは、メモしていないのだ。実はプロでも素材をメモしておかなければ書けない。私だってそうである。ところが、プロでもない人がメモを取っていないのだから、書けるはずがない。
というのも、人間は忘れてしまう生き物だからである。長い歴史のほとんどを人間はジャングルで暮らしていた。ジャングルでは、ちょっとでも油断すれば、危険な生物にガブリとやられてしまう。そこで、人間は周囲の変化に対応できるよう、常に脳のスペースを空けるように進化した。つまり、忘れてしまうのである。
これには心当たりがある人も多いのではないか。いろんなことを、人間はいとも簡単に忘れてしまう。さっきまで覚えていた用事まで忘れてしまったりする。そこで困らないようにするにはどうするか。メモをすればいいのだ。
これは文章の素材も同じ。例えば、営業日報など日報が書けない、という人がいる。その日、何をしていたか、書けばいいわけだが、書けない。それは、忘れてしまうからである。書けたとしても、メモをしていなければ、不正確でおぼろげなものになりかねない。
では、営業にしても、日中にしっかりメモを取っていたとしたらどうか。1日3件、商談があったとして、その商談ごとにしっかりメモを取っておく。どんな話をしたか。相手の反応はどうだったか。どんな言葉を残したか。こちらの感触はどうか。次につながるアクションはどんなものになったか……。
こうしたことは当然、商談を通じて営業は捉えているはずである。だから、それをメモしておけばいいのだ。それはそのまま、日報に書ける内容になる。つまりは、上司に営業状況について報告できる素材になるのだ。
実は私はコピーライターになる前、アパレルメーカーで営業を担当していた。書くのが嫌いで苦手だった私は、日報がなかなか書けなかった。夕方、会社に戻ってから日報を書こうとしても、思い出せない。メモを取っていなかったからだ。必要なのは、メモだったのである。
営業に限らない。リモートワークが増え、その日、何をしていたのか日報を求める会社も多い。ところが、書けなくて悩む人も多い。日報を書くのに、長い時間を掛けざるを得なくなってしまうというケースもあると聞く。これでは、まさに本末転倒である。
しかし、日中にやっていた仕事について、しっかりメモを取っていたとしたらどうか。何をしていて、どんなことを感じ、どう次につなげていきたいか。仕事の合間に逐一メモを取るのは、それほど難儀なことではない。しかも、それがあれば、あっという間に日報が書けてしまうのだ。
これは、レポートや報告書、企画書などでも同様である。また本書では、素材に目が向きやすくなる心得についても記している。ほんのちょっと意識を変えるだけで、文章は怖いものではなくなっていくのだ。これからの時代、ぜひ知っておいてほしいことである。
著者プロフィール:上阪徹(うえさか とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手掛ける。これまでの取材人数は3000人超。担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『1分で心が震える プロの言葉100』(東洋経済新報社)、『引き出す力』(河出書房新社)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『文章がすぐにうまく書ける技術』(日本実業出版社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)、『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)など多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。
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