社内にファンを増やし、企業価値を上げていく「インナーブランディング」の効果とは:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
あなたの会社では、従業員全員が企業理念を理解し、共感・実践できているだろうか? それができていれば、あなたの会社はすでにインナーブランディングに成功していると言える。しかし、どのくらいの企業が成功しているのか……。
ブランディングの効果
「ブランド・エクイティ戦略」を提唱したブランド論の大家、デービッド・アーカーは、著書「ブランド論」のなかで、スウェーデンの上位500社を対象にした調査を実施している。その結果、「社内と外部の両方に向けてブランド・ビジョンを強調した企業」の14.4%が収益性が向上したと述べている。対して「ブランド・ビジョンを主に社内的な文化醸成の推進役に使った企業」では、収益性が向上した企業は11.3%に留まっている。さらに、「ブランド・ビジョンに疑いの目を向けていた企業」では8.0%しか収益性が向上していない。つまり、インナー、アウター両輪でのブランディングを活用した企業の収益性は、そうでない企業よりも統計的に高いことが分かる。また、ブランディングによって、業績面以外の効果も期待できる。従業員満足度の向上、離職率低下、採用力の向上などである。
「インナーブランディングの進め方には、次のような段階があります。“認知”“理解”“共感”“実践”“協働”の5段階です。多くの人は認知・理解まではできるのですが、共感までは至らないことが多いんです。先に話した“同感”止まりになることが多いのです。理念を実践するにあたっても、共感できていないと行動の方向性がズレていくことがありますので、この部分は重視しないといけません。創業者や経営者の感情に寄り添って同じように思えるようになると、理念に寄り添った実践ができるようになります。それが部門間連携などでつながっていくと、より良いシナジーが生まれます」(鈴木氏)
インナーブランディング実践企業の成功例
ある精密機器販売会社では、「方針、理念の浸透、社内コミュニケーション活性化」を目的として社内報のリニューアルを行った。あらゆるメディア(グループウェア、SNS、業界サイトへの掲示など)を活用し、徹底したコミュニケーション導線の作り込みを実施したところ、社内アンケート結果の向上、社内広報誌に関する賞を受賞するといった効果があった。
あるグリーティングカード製造メーカーでは「徹底した従業員満足度の向上」を目的とし、ブランド哲学を実践する教育が実施された。入社時には社内大学で数週間の研修を受け、徹底してブランド哲学を学んでいる。製品開発においても、「その製品は人間関係を良くするか」「自社のイメージにあっているか」が繰り返し問われる。こういった理念の浸透により、働きたい会社ランキング上位の常連企業になっている。
ある運輸会社では「顧客満足度向上」を目的として社内コミュニケーション改善、社員の自主性向上のための社内企画立案のフレームワーク創設、顧客満足へ向けたスローガン構築などを実施。顧客満足度向上とともに業績も向上した。
その他にも、社内SNSの構築と運用、サンクスコイン制度、サンクスメッセージシステムなどによる社内コミュニケーションの活性化や社員間の関係強化といった取り組み例が見られる。
「企業理念やコアバリューを構築する際には、それは創業者や経営者の想いと合致し、さらに多くの社員が納得し共感できるかなどを考える必要があります。そのカルチャーにフィットしない人材は、他の企業に移った方が活躍できる可能性もあります。そういった意味で、インナーブランディングを実践しはじめた頃は、理念に合わないと考える従業員が離職していくため、退職者が一時的に増えるかもしれませんが、自分が本当に共感でき活躍できるフィールドを目指した方が、双方にとって良いことでもあります。しかし、インナーブランディングが浸透した後、そのカルチャーに合った人材を採用できれば、定着率は上がっていきます」(鈴木氏)
このようにインナーブランディングのために、各企業がさまざまな取り組みを実践しているが、ある会社で成功した施策が他の会社で成功するとは限らない。それは、理念が異なり、そこにいる人もそれぞれ異なるからだ。自社に合ったインナーブランディングを実践するには、しっかりと理念を理解し、共感を深めて行動を変容させなければならない。
鈴木氏は、インナーブランディングを実践するには、経営者が覚悟を決めて徹底的にやり続けることが重要だと結び、講演を終えた。
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