最初期から最晩年の作品まで、染色家・柚木沙弥郎の75年の歩みをたどる展覧会が開催:タイムアウト東京のオススメ
東京の街の“ローカルエキスパート”が、仕事の合間に一息つけるスポットやイベントを紹介します。
2024年に101歳でその生涯を閉じるまで染色家として活動を続け、海外での展示やインテリアブランド「IDEE」とのコラボレーションなど、アートファンのみならず多くの人々を魅了した柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)。そんな彼の展覧会「柚木沙弥郎 永遠のいま」が、2025年12月21日まで「東京オペラシティ アートギャラリー」で開催されています。
コロナ禍をきっかけに多くの人たちがライフスタイルを見直したことで始まった「民藝ブーム」もあり、いまや柚木沙弥郎の作品や人物像、経歴について、全く知らないという人は少なくなってきたでしょう。改めて振り返っておくと、1922年生まれの柚木は、父親・久太が洋画家だったことから美術への関心を抱き、現在の東京大学にあたる東京帝国大学文学部美学・美術史科に入学。ですが、太平洋戦争の開戦により、わずか1年足らずで学徒動員となりました。
戦後は「大原美術館」への就職が決まり、初代館長・武内潔真(たけうち・きよみ)の影響で、柳宗悦らが提唱した民藝思想に関心を持つようになります。その後、館内に飾られていた芹沢_介の型染めカレンダーに魅了されたことをきっかけに、染色家の道を志しました。
柚木の展覧会はこれまでも各地でたびたび開催されてきましたが、今回の展覧会はその切り口が少し異なります。大判の作品を並べて創作の歩みを振り返るといった方法ではなく、ゆかりの地や地域とのつながり、各国で収集した愛蔵品、さらには染色以外の多様な表現や仕事を通して作品を紹介している点が興味深いです。
柚木の作品が愛らしく、どこか懐かしい印象を与えるのは、彼が選ぶモチーフが身の回りのものにあるからでしょう。それがたとえ田園風景や、春を待つ植物たちの根の様子、あるいは通り抜ける風のように、型染めでは表現が難しそうな題材であっても彼はそつなく軽やかな形とイメージに仕上げていきます。
そうして生まれるイメージは、何かを識別したり区別したりするために描かれたものではありません。だからだろうか、ときに柚木の作品は、国籍を持たない旗のようにも見えます。
今回の展示でとりわけ興味深いのは、晩年の作品です。それらは、長年の染色の仕事で培われた技術が凝縮され、もはや完成までに少しだけ手を加えるだけで十分という域に達しています。
生涯を終える2カ月前に制作されたコラージュ作品は、晩年のマティスがたどり着いた切り絵の境地を思わせます。色や形、フォルムを通して「生きるよろこび」を生涯追い求めた柚木にとって、その作品はまさに人生の終着点といえるでしょう。
展覧会を後にしたら、ショップも忘れずに。ティッシュケースカバーやブックカバー、ソックス、手拭いなど、同展のオリジナルグッズが多数展開されています。
柚木の染色以外の仕事を網羅的に紹介する同展では、彼が人生の中でどのような影響を受け、何を大切にしてきたのかが垣間見ることができます。これまでに柚木の展覧会や作品を見てきた人でも、毎回新たな発見がある作品のすごみを体感しに、足を運んでみてはいかがでしょう。
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著者プロフィール:タイムアウト東京 編集部
タイムアウトは、1968年にロンドンで創刊され、現在は世界333都市59カ国、14言語で展開する国際的なシティガイドです。東京版「タイムアウト東京」は、日本のヒト・モノ・コトを独自の視点で取り上げ、日英バイリンガルで世界に魅力を発信。高いブランド力とグローバルネットワークを背景に、雑誌やウェブ、ガイドマップを展開。恵比寿には「タイムアウトカフェ&ダイナー」もオープンしています。
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