【第1回】投資銀行破たんから学ぶ2009年の経営石黒不二代のニュースの本質(1/2 ページ)

米金融崩壊に端を発した経済危機は欧州や新興国をも飲み込み、世界を不況のどん底へと陥れた。目下、経営者は厳しいかじ取りを迫られているわけだが、企業を正しい方向へ導くためには、今起きている出来事の「本質」を理解することが不可欠だ。新連載「石黒不二代のニュースの本質」では、ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEOの石黒不二代氏が米国へのMBA留学経験などを踏まえて鋭い視点で時事問題を斬る。

» 2009年01月13日 08時30分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 企業の競争要因には、技術開発やオペレーションなど自社が調整可能なタイプと、環境や市場性という調整不可能なタイプがあります。世界的に信用経済が収縮し実体経済にも影響を及ぼした2008年は、前者で過ちを犯したウォール街を震源地として世界中のありとあらゆる業態で後者の競争要因を弱体化し始めた年でした。

 米国では、この金融危機を招いた戦犯探しが人気のようですが、今回の金融危機は人事ではなく、どの企業でも犯しがちなミスが満載です。「失敗から学ぶ」はシリコンバレーの十八番であるのですが、わたしたちもこれらの失敗から学ぶことができそうです。

 しかし、失敗から学ぶときは、失敗の要因を正確に把握しない限り成功への転換はできません。大恐慌以来の不況に突入しているわたしたちは、その失敗要因の本質を見間違えているかもしれない、そんな疑問に思える出来事にぶつかりました。それ故に、改めて本質を皆さんとともに見直し、今年なすべき経営について再考してみたいと思うようになったのです。

今回の危機は単に住宅バブルの崩壊ではない

 それは昨年末、有名なジャーナリストの方と話したときのことでした。わたしが2008年に我慢ならなかったことの一つは、「投資銀行の代表格である米Goldman Sachsの元CEO(最高経営責任者)が金融危機の建て直しのために財務長官として政策をリードしていることだ」と話すと、「いや、Goldmanはまだいいんですよ。破たんした米Lehman Brothersが悪い。今回の金融危機は、住宅が値上がりしていることを前提に、支払い能力のない低所得者向けにサブプライムを出し続けたことでローンが焦げ付いた。これが全貌です」とおっしゃるのです。サブプライムの説明としては間違っていないが、もっと根源的な議論をしないと、金融危機は単なる住宅バブルで片付けられてしまいます。

 隠れ負債はサブプライムだけではく、社債やこれから表面化するだろうと言われるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とさまざまです。Lehmanが破たんしてすぐにGoldmanやMorgan Stanleyは投資銀行の地位を捨て、政府支援を受けられる持ち株会社への移行を発表しました。実質的に米国から投資銀行は姿を消し、各行は大型資金調達に踏み切りました。わたしにとっては、こちらのニュースのほうが大ごとでした。

金融工学の高度化により実態把握が困難に……

 もともと、投資銀行の原型は日本の証券会社の法人向けビジネスでした。IPO(新規株式公開)を支援したり、債権を発行するなど大量の現金を必要としないPL(損益計算書)で実態が把握できるコミッションビジネスでした。しかし、金融緩和により、商業銀行が証券業務に進出し、そのために投資銀行はよりレバレッジビジネスに移行していきました。

 リスクを取れば取るほどもうかる、という方程式は成長市場でしか通用しません。成長市場であるという前提の下、やってはいけないこと、つまり長期債務の資金源を短期資金に頼ってしまったのです。Lehman破たん後、銀行各社が資金調達をしたのは、コミッションビジネスから商業銀行さながらのBS(貸借対照表)勝負のキャッシュビジネスに変貌していったからです。生業が変われば資金が必要となりますが、それを短期資金に頼っていたために成長が止まれば破たんは明らかだったのです。

 ウォール街は高度化する金融工学を用いて、リスクを軽減させる手段として、住宅ローンやそのほかの金融商品の証券化を行い、数々のデリバティブ(金融派生商品)を生み出しました。皮肉なことに、それら商品を販売する段階でレバレッジを効かせ過ぎ、リスクは軽減されず増加してしまいました。商品はあまりに複雑になり、証券化された商品はそれを扱う銀行などの間で金利差と時間差を利用して次々と取引され、中心的な取引市場さえ存在しなくなりました。そのために、取引規模の実態を誰も把握しなくなったのです。市場内でも会社内でも同様のありさまでした。

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