【第2回】日本の一歩先を行く米国企業ダイバーシティの“今”を追う(1/2 ページ)

日本では導入半ばであるダイバーシティですが、米国ではすでに多くの企業で実践が進んでいます。経営戦略の上で重視する企業も少なくありません。

» 2010年03月16日 08時15分 公開
[渡邊玲子, PwC P&C Diversity team,ITmedia]

 前回は、日本企業におけるダイバーシティ・マネジメントの現状について述べました。今回は米国のダイバーシティ・マネジメントについて述べていきます。

 米国におけるダイバーシティの考え方は、1960年代に施行された人種、肌の色、宗教、出身地による差別の撤廃を目的とした公民権法に基づき、元々は黒人と女性に対する差別的な人事慣行を撤廃しようとするものでした。1980年代に入ると、米国社会におけるさまざまなマイノリティ(アジア系、ラテン系、障害者、軍隊経験者、同性愛者)への特別措置(アファーマティブアクション)を包括するものに変わりました。それに伴い、各企業はコンプライアンス上の要請からダイバーシティ・マネジメントに取り組み、女性やマイノリティへの採用、給与、評価、昇進の見直し、そしてキャリア開発の機会創出に乗り出しました。

 1990年代に入ると、単に女性やマイノリティに白人男性と同等の機会を提供するという考えから、一歩進んで、それぞれの異質なアイデンティティを理解し合うことで組織内の融合を図り、より生産的な労働環境を築くという考え方に基づいた「組織マネジメント」に取り組む企業が現れ始めました。この考え方が現在の米国のダイバーシティ・マネジメントの土台となっています。

 2000年代以降は、インターネットの出現によって世の中が大きく変わったほか、米国の経済が厳しい状況に陥りました。その結果、成功し続けるグローバル企業であるためには、米国中心の考え方や文化だけではなく、多様な考え方や文化を取り入れ、違いを尊重し、その違いを経営に生かすことが必要であり、それによって初めてグローバル市場をリードするということを学んだのです。現在では、多様性は企業の業績に貢献するものとして、組織におけるダイバーシティ・マネジメントは重要な経営課題の1つと考えられています。

 特に90年代以降は、女性の管理職への登用が競争優位性の確保のための重要な戦略として位置付けられました。その結果、Fortune 500に名前を連ねる企業の経営者として活躍する女性も出現しました。Pepsi-Cola North America CEOのブレンダ・バーンズ氏(現Sara Lee CEO)やAT&Tでエグゼクティブ バイスプレジデントを務めるキャラ・カールトン・フィオリーナ氏(元HP会長)はその一例です。

女性登用と企業業績の関係

 現在多くの米国企業が、ダイバーシティ・マネジメントの一環として、女性社員を積極的に登用する理由の1つに、企業業績と女性の登用実績の相関関係が挙げられます。Diversityの調査では女性を積極的に登用する会社の50社がFortuneの上位企業であるという調査結果が出ています。

 またDiversityが選出するダイバーシティの先進企業である「Diversity50」、Fortuneが選出する「50 Best Companies for minorities」の企業を見てみると、上記のいずれにも選出されていない競合企業よりも業績が高い傾向にあります。同時期に実施された別の調査では女性の役員がいる企業は、女性の役員がいない企業に比べて業績が高いという結果も出ています。

 先進的な米国企業においては、現在日本でさかんに行われている女性活用のための施策(女性や女性幹部の積極登用、女性のライフステージに合わせたサポートプログラムなど)は既に成熟しており、今では女性の特性を最大限に生かすためのキャリア管理が実践されています。男性にはない女性の特性を十二分に発揮できる部門で女性を育成、登用する仕組みを取り入れています。

 つまり、女性のキャリアパスについては、ある程度、男性と分けるという考え方です。実際には、企画やコミュニケーションの能力が重視される職種や、比較的個人単位で成果を上げやすい部門で女性が積極的に登用されています。特に、広報、営業、人事、総務などの部門で多くの女性が登用されています。業界でいえば、IT、小売、消費財業界で女性の経営幹部が多く誕生しています。(2010、Catalyst統計)。

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