ASEAN経済共同体(AEC)がもたらすインパクト飛躍(1/3 ページ)

ASEAN地域の成長に向けて各国が一体となった取り組みとして、2008年からASEAN経済共同体構想が進められている。4つの戦略目標が設定されているが実現すれば、自由な経済活動が対外投資も呼び込み、ASEAN経済は更なる発展が期待される。

» 2015年04月27日 08時00分 公開
[石毛陽子ITmedia]

1.ASEAN経済共同体(AEC) の現状 

 ASEAN地域の成長に向けて各国が一体となった取り組みとして、2008年からASEAN経済共同体(AEC) 構想が進められている。AECとして8年後の2015年末までに実現すべきものとして、以下の4つの戦略目標が設定されている。(図A参照)

 各戦略目標が実現すれば、ASEAN域内におけるヒト・モノ・カネの移動はより自由になる。自由な経済活動が対外投資も呼び込み、ASEAN経済は更なる発展が期待される。

 但し、現状、2015年末の時点で各戦略目標を実現することは課題が多く、難しいだろう。2013年10月の第23回首脳会議の議長声明において、進捗は79.7%と発表されている。(図B参照)

図A:AECにおける4つの戦略目標、図B:進捗
図C:ASEAN各国の一人あたりGDP[USD、2014年]

 各戦略目標のうち、「単一の市場と生産基地」における「物品の自由な移動」について、関税の撤廃は順調に進んでいる。シンガポールやタイ、マレーシア等の先発加盟国では、2010年に既に関税0%が達成されており、ベトナムやミャンマー等の後発加盟国でも、2015年内に原則関税0%を達成する予定である。しかしながら、貿易における数量制限や自動輸入の禁止等、非関税障壁は各国で依然として多く残されており、実質的な貿易の円滑化に向けての道のりは遠い。

 また、物品以外の投資や熟練労働者の自由な移動については、完全な自由化が滞っている。「投資」のうち観光やヘルスケア等の優先分野、ロジスティクス分野については2013年までにASEANの外資資本比率が70%まで容認された。しかし、その他のサービス分野は予定より遅れている。また、そもそも、この「外資容認比率」の計測方法が疑問視されており(※注記1)、目標値自体が無実化する可能性も指摘されている。「ヒト」の移動については、そもそも全労働者が対象ではなく、熟練労働者に限定されている。現在、特定8業種(※注記2)で専門家サービスの域内移動について各国間の相互承認協定が締結されているが、いずれも実際の発行には至っておらず、進捗は滞っている。

 「競争力のある経済地域」においてはインフラ開発や法整備等がテーマとして挙げられているが、インフラ開発は資金不足や政治的混乱により停滞、法整備に至っては後発加入国において特に進んでいない。

 「公平な経済発展」については中小企業支援の各種施策や人材育成等のソフトインフラを中心としたASEAN統合イニシアチブ上のプログラムを展開しているが、効果が出るのはまだ先になろう。2014 年時点の一人あたりGDPのASEAN加盟国間の格差は最大で50 倍以上に達する。(図C参照)

 もっとも進展しているのは「グローバル経済への統合」で、ASEANは既に周辺地域とFTAネットワーク(自由貿易協定) を構築している。

2.AECはどのようなビジネスチャンスをもたらすのか

 AECの完全な実現はまだ先とはいえ、着実に自由化は進んできている。その変化はASEAN全域の事業構造を変え、多くのビジネスチャンスをもたらすだろう。ビジネスチャンスは、(1)モノ・ヒトの移動に伴う障壁低減に伴うもの、(2)モノ・ヒトの移動量が増加することによるもの、(3)AECによる経済成長の押し上げによるもの、の3つの観点から生まれると考えられる。

 (1)について、AECの進展により域内でのモノ・ヒトの移動がより容易になれば、特に製造業において生産拠点の最適化等によるコスト削減効果が見込める。また、他国への輸出負荷が軽減されることによる事業拡大や、熟練労働者の流動化を生かした関連サービスの新規展開も考えられる。

 生産拠点の最適化により削減されるコストは、関税・非関税措置の負担軽減による取引コストのみならず、生産・調達の規模拡大によるスケールメリット、安価な人材を活用できる地域への労働集約型事業の集積による人件費削減、ロジスティクス・ルートの最適化、それに伴う在庫の縮小による物流コスト等が見込まれる。

 例えば自動車産業においては、タイに製造拠点を持つトヨタ紡績がラオス、矢崎総業や住友電装がカンボジアに労働集約型の部品製造を一部移転しており、「タイ・プラス・ワン」としての生産拠点の分散を進めている。また、アパレル業では、ベトナムを調達・輸送拠点、カンボジアを生産拠点とすることで、ベトナムの輸出インフラとカンボジアの安い労働コスト、及び税制優遇を享受する域内分業が進んでいる。

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