ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
不安を、ワクワクに変えよう(2/2 ページ)
京都の町が難しいのは、説明を全部してくれないからです。美術館の方がまだラクです。額縁・作品名・図録、「今日の作品目録」も用意してあり、どれが作品で、どれが作品でないかが分かります。
現実社会において、額縁も作品名もない中では物語を見つけにくいです。隠された趣向をどう楽しむかが大切です。「あいにくのお天気で」という表現は、文化の中にはありません。雨は雨の楽しみ方があります。雨や風の音が聞こえたり、雪が降ったり、寒いことも、それをいかに味わうかという趣向の1つになっています。
お茶会でのワクワク感は、亭主がつくった隠された趣向に気付くことから生まれるのです。隠された趣向に、気付くことでワクワクが生まれます。
ショーウインドーには、メッセージが込められている。
「自分はお茶会に行かないから床の間は関係ない」と言う人も、ふだん目にしているものの中に、無限に床の間に当たるものはあります。
それに気付く人と気付かない人がいるのです。
例えば、街のショーウインドーは宣伝的なところではありません。ショーウインドーは、お茶室の床の間と同じようなしつらえになっています。そこには文字的な説明は何もありません。立ち止まって眺めなければ物語には気付けません。物語には時間の流れがあるからです。
代表的なショーウインドーは、銀座四丁目にある和光のショーディスプレイです。日曜日に、中谷塾の遠足で銀座へみんなを連れて行きました。7人のメンバーで喫茶店を探すと、日曜日の午後だったので1軒目も2軒目も満席でした。3軒目にたどり着いたところは、和光向かい側の日産ショールーム2階のカフェコーナーでした。そこで女性は座って、男子は立ちながらコーヒーを飲みました。
その時、向かいに和光のウインドーディスプレイがありました。ふと見ると、いつもは上にある時計が珍しくショーディスプレイの中にありました。ショーディスプレイは、必ずしもマネキンや商品が置かれているわけではありません。
和光の時計はふだん、非公開の屋上にあります。ショーウインドーにあるのは屋上の時計とまったく同一でしたが、針が指している時間が違いました。私が見た時は4時を過ぎていましたが、下の時計はまだ3時になっていません。
よく見ると3・11の東日本大震災が発生した2時46分でした。ちょうど3・11から10年後の1週間だけ、ディスプレイとしてその時計が展示されていたのです。
和光のショーウインドーの前は待ち合わせをする人が多いです。その前にはちょうど信号があって、多くの人が信号待ちをしています。ほとんどの人は、信号が早く変わらないか見ていたり、これから行く先を見ていたり、スマホを見ています。
その時、ふとショーウインドーを見るかどうかが分かれ目になります。ショーウインドーを一瞬見て、「ここにこんな時計がある」と思って通り過ぎる人もいます。デジタル時計なら、数字が動く瞬間に立ち会えば分かります。アナログ時計が止まっているというのは、そこで1分以上立ち止まらないと分かりません。上の時計の時間と違うことに気付くためにも時間が必要です。
ショーウインドーは、道端の花と同じで主張をしません。「ここでこんなイベントをしています」「こんなインスタレーションをしています」ということは何も主張せずに、気付く人だけが気付きます。
ここが情報と違うところです。「ただひっそりとそこに置かれているもの」にどれだけ気付けるかです。
ショーウインドーを見て「上の時計と同じだ。大きいんだな。それをここにおろしてきて見ることができたんだ」で終わる人もいれば、「3・11の2時46分だ。進むために思い出そうというメッセージなんだな」と感じる人もいます。
「あの時を思い出そう」というメッセージで止まってしまう人もいます。物語で一番大切なのは、「終わりがない」ということです。「ここで終わり」というのはなく、どこまでも続いていくのが物語です。
私が和光のショーウインドーを目撃したのは3月7日でした。この話には続きがあります。4日後の11日の2時46分に、服部時計店の上の鐘が鳴って、あの時計が動き始めたのです。
「あの時を忘れてはいけないけど、あの時で止まっていてはいけない」というつくり手のメッセージに気付いた時に、改めて「面白いな」と感じたのです。
ショーウインドーに、メッセージを感じることで、ワクワクが生まれます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「人間洗濯機」が高齢者施設に 福祉の現場に万博技術導入 人手不足解消や産業成長に期待
-
2
「CISOは1人の経営者たれ」――ログの先の人を思う、LayerX CISO 星氏
-
3
高島屋・村田善郎社長 挑戦続けるアバンギャルドな百貨店 ベトナムや新型SCに重点投資 My Vision
-
4
なぜコーポレートITはコスト削減率が低いのか――既存産業を再定義することでDXを推進
-
5
ITmedia エグゼクティブ勉強会スケジュール
-
6
森ビルが挑む、DXを通じた「ヒルズライフ」の充実とコア領域の内製化
-
7
「セキュリティは事業を活かす出汁、責任者はCIMOで目指せ」 - JTB 椎野氏
-
8
どの区立中からも通えるオンライン将棋部発足 休日はリアル、プロ級も指導 東京都大田区
-
9
本田技研工業のDXはボトムアップとトップダウンで“Hondaらしく推進”
-
10
味の素社が挑む“dX”とAI駆動開発――“企画・開発・営業ができる人財”が新規事業を加速する
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー