セキュリティリーダーの視座

Agentic AI前提でセキュリティを作り直す - Sansan 鴨志田氏(1/2 ページ)

 生成AIやAIエージェントが、企業の文書やデータに触れる場面が増えている。これまでであれば、従業員一人一人が規定を読み、注意して情報を扱ってきたわけだが、今後も同じやり方でセキュリティを担保できるのか。

 営業AXサービス「Sansan」や経理AXサービス「Bill One」、契約AXサービス「Contract One」などを展開し、名刺や請求書、契約書といった企業活動のデータを預かるSansan。その情報セキュリティ部を率いるのが鴨志田昭輝氏だ。

 セキュリティ分野で約30年を過ごしてきた鴨志田氏。かつて他社に先駆けてサービス化した経験を持つ脆弱性診断も、いずれAIに置き換わるという認識を持っている。自らの専門性すら揺らぐ時代に、同氏は何を見据え、どう動いているのか。鴨志田氏のキャリアと、今描いている構想に迫る。


鴨志田 昭輝(KAMOSHIDA Akiteru)

――Sansan株式会社 技術本部 情報セキュリティ部 部長

Sansan 技術本部 情報セキュリティ部 部長 鴨志田 昭輝氏 Photo by 山田井ユウキ

 横浜国立大学大学院で松本勉氏の研究室に所属し、暗号技術の応用を研究。メーカーの研究所を経て、2001年からNRIセキュアテクノロジーズでWebアプリケーションの脆弱性検査サービスの立ち上げに携わる。楽天、リクルート、東京海上ホールディングスを経て、2026年5月から現職。リクルートでは、Recruit-CSIRTを一から立ち上げ、「サイバーセキュリティに関する総務大臣奨励賞」などを受賞した。共著に『実践CSIRT 現場で使えるセキュリティ事故対応』(日経BP)。


セキュリティのプロとして正しいと思うことをやるためにユーザー企業へ

――まず、これまでのご経歴を教えてください。

鴨志田氏: 横浜国立大学の大学院で、松本勉先生の研究室に入ったのが1996年のことでした。インターネットという言葉がはやりだした頃ですね。そこから、もう30年経ちました。

 研究テーマは暗号技術の応用でした。大学院を出た後は、メーカーの研究所で3年ほど研究を行っていました。

――そこからセキュリティベンダーへ移られます。

鴨志田氏: 当時、国内でセキュリティの研究をやっても世界にはついていけないという限界を感じていました。移った先は、野村総合研究所が社内ベンチャー制度を使って作ったNRIセキュアテクノロジーズです。まだ設立したてで、20人ぐらいの小さな会社だったので、案件が来れば私にもいろいろ回ってきていました。営業から契約の手続き、請求書の送付まで何でもやりましたね。

――その会社では、どのような仕事が印象に残っていますか。

鴨志田氏: 一番面白かったのは、今はもう一般的になったWebアプリケーションの脆弱性検査サービスです。サービス化されたタイミングは、おそらく国内でもほぼ最初だったと思います。

 2005年ぐらいまで、世のWebアプリケーションは、もう脆弱性だらけでした。SQLインジェクション対策とか、そういう話も誰も知らないレベルだったので、検査すれば何かしら出てくることが多かったですね。

Sansan 技術本部 情報セキュリティ部 部長 鴨志田 昭輝氏 Photo by 山田井ユウキ

――その後、ユーザー企業である楽天へ移られます。何がきっかけだったのでしょうか。

鴨志田氏: セキュリティベンダーに所属していると、お金を稼ぐことを求められます。セキュリティのプロフェッショナルとして正しいと思うことと、セキュリティベンダーの利益は、一致しないことも多々あるんです。

 だとすれば、自分が専門家として正しいと思うことを言ったり、やったりできるのは、ベンダーではなくユーザー企業だなと思ったんです。

セキュリティ組織のコアメンバーとして、ほぼ1人でCSIRTを立ち上げ

――NRIセキュアを離れた後、楽天ではどのような経験をされましたか。

鴨志田氏: 楽天時代は、インシデント対応に携わることが多かったですね。特に2013年にリスト型攻撃が国内ではやったときは、楽天も影響を受けました。翌2014年には楽天銀行に兼務出向して、アカウント乗っ取りによる不正出金の対策にも関わりました。

――そこから、2014年12月にはリクルートへ移ります。

鴨志田氏: リクルートは、もともと紙のビジネスモデルだったところ、2000年代の頭にデジタル化へ軸足を切り、すごくうまくやっている会社でした。ただ、DXが進む中でセキュリティの強化が急務で、そこへの危機感が経営にもあったんです。セキュリティの組織再編をするという話があり、そのコアの1人として声をかけてもらいました。

Sansan 技術本部 情報セキュリティ部 部長 鴨志田 昭輝氏 Photo by 山田井ユウキ

――入社後、どのようにCSIRTを立ち上げたのですか。

鴨志田氏: 入社してから、ほぼ1人でCSIRTを始めました。翌4月ぐらいにはエンジニアリングを統括する部門を率いる立場になって、人もちょっとずつ増やしていきました。そのなかで、いろいろな方と信頼関係も築き、社内で名前も売れて、仕事がやりやすくなりました。

――そのCSIRTチームは、2018年にサイバーセキュリティに関する総務大臣奨励賞を受賞しています。その後、ご自身の役割はどう変わっていったのでしょうか。

鴨志田氏: 一度CSIRTを離れてガバナンスの方に入り、最終的にはセキュリティ全体の責任者になりました。

専門家としての危機感から、30年目にして移籍を決意

――2026年5月にSansanへ入社されました。それ以前から、同社との関わりはあったのでしょうか。

鴨志田氏: 入社する前に半年ぐらい、副業でお手伝いした時期がありました。ですので、Sansanの状況や課題については、ある程度把握した状態で入っています。

――移籍を決めた理由を教えてください。

鴨志田氏: セキュリティへのAI活用は、もう待ったなしだと思っています。AIがここまで進化してくると、私が昔やっていた脆弱性診断みたいな業務は、ほぼAIに置き換えられてしまう。そうなったときに、セキュリティの専門家として自分の価値が出るところはどこだろう、と考えました。

――どこに価値が残ると考えたのでしょうか。

鴨志田氏: すごくシンプルです。AIを活用した業務を設計する立場になることです。例えば脆弱性検査のために何億円も使っている企業があったとして、もしその脆弱性検査をAIで内製化することができたら、それは高い価値を発揮したことになりますから。

――数ある企業のなかで、Sansanを選んだのはなぜですか。

鴨志田氏: SansanはAIの活用が進んでいて、開発力のあるエンジニアもたくさんいます。ここでなら、モダンなCI/CDを使った開発にAIをどんどん組み込んで、セキュリティを担保していく世界が実現できると考えました。

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サイバー攻撃が高度化する今、もはや一社だけで立ち向かうことはできません。本連載では、第一線で活躍するセキュリティのキーマンの経歴や思考、現場で培った実践知を紹介し、多くの方の判断のヒントとなる視点を届けます。ITmedia エグゼクティブでは、こうした知見を起点に、組織を越えた協力や交流の場づくりも進めていきます。

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