「ビッグスリー」の一角である米自動車大手・クライスラーが破たんするなど、昨秋以来の経済危機は大きな爪痕を残している。売り上げ拡大の機会損失になるという理由から、「大型連休が怖い」と語る経営者もいるという。
気が付けば5月もあっと言う間に半ばを過ぎた。前回お話した、スケジュール帳を開いてスイッチを切り替える術を身に付けた人は、仕事に全開で取り組んでいるのではないだろうか。
さて、米自動車大手のChryslerが、連邦破産法11条の適用を申請し、経営再建を目指すことが決まった。Chryslerは米国の自動車産業「ビッグ3」の一角である。
そうした企業がなぜ今回のような事態に陥ったのだろうか。昨年来の経済危機の影響もあるだろうが、時代の変化に乗り遅れ、お客様のニーズを読み取れず、変革できなかったツケが回ってきたことが大きい。現在は大きな転換期にあり、昨年の危機以降、世界中でさまざまなパラダイムシフトが起きている。今回は、今の時代に、多くの企業でコーチング研修などをしながらわたし自身が肌で感じていることについてお話ししたい。
具体的には、(1)経営者の視点を持たない人が増えている、(2)自分のことだけを考えている人が増えている、(3)人材教育の重要性が増している、である。
1点目は、経営者の視点を持たない人が増えていることだ。最近ある経営者と話す機会があった。彼は「休みが怖い」と言っていた。当たり前だが、休みが増えると会社の営業日数は減る。5月のように大型連休がある月は、およそ半月で他の月と同じように売り上げを上げ、社員に給料を払い、利益を出さなければならない。これはとても大変なことである。
一方、従業員にとっては、休暇は嬉しくてたまらないだろうし、どう過ごすかわくわくしながらプランを立てる人も多いだろう。わたしが話をした経営者も、経営者になる以前は同様の考えで、自分自身は能力があり、短い時間で高い生産性を上げていると思っていたので、休みが多いことに異論はなかった。ところが、自分が経営者になった途端、その考えが変わったという。
松下幸之助氏が記した書籍の中に、「社員稼業」という名著がある。そこでは、与えられた仕事を単にこなすだけのサラリーマンに終始するのではなく、社員一人一人が1個の独立経営体の主人公になり、経営者の立場でものを考えて仕事を進めることを提言している。今やこの視点が欠如している人が多いように思う。このような時代だからこそ、求められるものではないだろうか。一般社員も経営者、経営幹部も、自分が会社にどれだけ貢献できているかということを改めて考えてほしい。
例えば、休みにただ浮かれるのではなく、それ以外の時間で同じ生産性を上げるためには自分はどうすればいいのかを考える。お客様がどのような商品を望んでいるのかを常に追求し続け、自分がどのように貢献できるのかを、すべての社員が考えるべきだ。
破たんしたChryslerは、経営者と従業員の間にさまざまな面で大きな溝があった上に、どちらもこの社員稼業という視点を持ち合わせていなかったように思える。誰かがやってくれるといった他人任せの状態に陥り、お客様のニーズに応える商品が作れなかった。特に経営陣は、一般社員の生活を守るという経営者としての責務を忘れ、自分たちの都合ばかり考えていたのではないだろうか。
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明治学院大学 経済学部准教授