正論では人は動かない――ソフトとハードグローバル時代のスマートリーダー術――100人の経営層から(1/2 ページ)

ハードパワーを行使すれば命令通り行動しその場は収まるかもしれないが同じことの繰り返しになる。本人が気付き行動が改善するには何が必要か。

» 2012年02月15日 08時03分 公開
[林正愛(アマプロ),ITmedia]

 「グローバル時代を生き抜くスマートリーダー術」というテーマで、前回はスマートリーダーに求められる、話を聴く、質問する力に焦点を当て、人の話を聴くことの大切さについて話しました。自分が主張する前にまずは相手の話に耳を傾ける、それはグローバルの時代のコミュニケーションの大前提になります。そのうえで、自分がどのように話せばいいのか、伝えればいいのか。一つには、ソフトとハードを組み合わせることが求められます。

ソフトとハードを組み合わせるスマートパワー

 「ソフトパワー」という概念を提唱したのは、クリントン政権下で国家安全保障会議議長、国防次官補を務めたアメリカ・ハーバード大学大学院ケネディスクールのジョセフ・ナイ教授です。軍事力や経済力などのハードパワーと対比する考え方で、アメリカの外交政策のあり方、手法として生まれた概念です。

 さらにナイ教授は2009年に「スマートパワー」という新しい概念を提唱しました。軍事力、経済力などのハードパワーと文化、技術などのソフトパワーの両方を駆使して国際協力を総合した新しい対外政策として、「スマートパワー」を使うべきだと主張したのです。

 強さで推し進めるハードパワーと相手を思いやりながら自ら納得して行動を促すソフトパワー、そのふたつをうまく組み合わせるスマートパワーがグローバル時代のリーダーにも求められています。

 なお、「伝える」ことが大事だとよくいわれますが、具体的に「伝える」とはどういうことでしょうか。自分が思っていることを口にしたら伝えたことになるでしょうか。一方的に話すことは、「伝える」ことにはなりません。相手が自分が言ったことを実践したり、自分が言ったことを理解して行動してくれたときに初めて、人に伝わり、伝えたことになります。

相手に気付かせる

 いろいろな価値観を持った人たちと接していくのだから、相手を思いやることが大切で、それならば優しくすればいい、と勘違いする人がいます。理解を示すことは大切ですが、ただ優しくすればいいということでは決してありません。間違っている場合はそれをしっかり伝えなければいけないですし、やるべきことをやっていなかったらそれを指摘する必要があります。

 ただし、言い方には気を付けなければなりません。「○○、これができていない」「○○、あれやったのか!!」このような言い方をすれば相手は恐縮するばかり。1度指摘しても、同じような失敗をしたり、言ったことを直したりはしないでしょう。

 大学を卒業して航空会社に入社しトレーニングを終えて晴れて初フライトとなったとき。10年以上のキャリアを持つ先輩と一緒に乗務をしていたのですが、13時間のフライト中、「○○ができていない」「○○やっていない」と連発され、へこたれそうになりました。決して悪い人ではなく、仕事のできるとても優秀な人だったのですが、13時間ずっと「○○ない」と言われ続けると、自分はだめな人間なのではないか、と意気消沈してしまいました。

 「○○ない」と言って、ハードパワーを行使しても、その人の行動の改善にはなりません。やはりこうすべきだった、これが間違っていた、ということを本人に気付いてもらうことが欠かせません。

 ある経営者が言っていました。「昔は若さにまかせて恫喝したり、冷徹な言葉を機関銃のようにぶっ放して、部下の言動を叱ってしまったこともありました。しかし、最近は、どうやったら、相手が気付いてくれるか? ということに、頭を使っています。わたしはかなりせっかちなので、実は、この方法を取ることは結構疲れます。ただ、相手の納得感を本当に得るには、相手が気付くように示唆をし、気付くまで辛抱して待つことが一番だと思うようにしています」まさにこのとおりです。

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