【第16回】埋まらないシステムと業務の溝(2)〜既存システムを殺さない3つのキーワード:三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(2/2 ページ)
日本人のものづくりに対する情熱を集積した手作りのプログラムが、陳腐化したという理由だけでいとも簡単に捨ててしまってよいのだろうか。本当に業務に適さなくなってしまったのだろうか。システムの本質をもう一度考えてみたい。
現在の課題解決だけではだめ
次に企業が取り組まなければならない直近のITテーマを挙げる。
「企業提携、合併対応」
システムのスムーズな統合、SCM、PSI、セキュリティ管理、マスター情報の統合(顧客、製品、従業員など)
「労働人口の減少」
スタッフ部門の生産性向上、現場業務支援ツール(EUC)
「海外中心の事業へシフト」
世界中で同レベルのITサポート、共通基盤化、レイヤー化
IT部門も4半期ごとに成果を出さなければならない。事業戦略を支援するシステム開発を短期で行わなければならない。上記の中長期テーマのように経営効果が見えにくいインフラに近い部分にIT投資をしなければならない。どのように経営者の了解を取り付け、リソースを投入するか。将来と現在の課題解決の二兎を追わなければ、負のスパイラルからは抜け出せない。IT部門トップの強い意志と信念がなければ乗り切れないテーマである。
既存システムを生かした経営改善
普及した企業の個別最適システムをすべて作り直すことはナンセンスであり、金と時間の無駄である。この課題解決のキーワードは「3R」(Reduce:リデュース、Reuse:リユース、Recycle:リサイクル)である。いかに既存システムを最大限に生かし、変化する機能群(コンテンツ管理、ユーザーインタフェース、ワークフロー、業務フロー、システム間インタフェース)を疎結合化、標準化するかである。
このソリューションを実現した際、各部門でのメリットは次の通りだ。
<経営の視点>
- 企業提携、合併対応:システム統合のQCD(品質、コスト、納期)の改善向上
- 労働人口の減少:小さな本社の実現
- 海外中心の事業へシフト:事業展開スピードアップ
- CSR(内部統制、情報セキュリティなど)の強化基盤が出来上がり、個別対応の必要がなくなる
<エンドユーザーの視点>
- 現場力の向上
- 否定形な業務指示に対して、迅速にアウトプットが作成できるツールとデータがそろう
<IT部門の視点>
- IT総コストの大幅削減
- システム開発QCD向上:IT部門の少数精鋭化
企業の業務の流れを描いて、利益を阻害するボトルネックを見つけ、まずは孫の手で利益の最大化を実現する。一方で、着実にIT基盤の構築を3Rのキーワードに基づき進める。これを継続的に進めていくと、成果を挙げながら利益が上がる仕組みづくりが実現できる。電車を走らせながら、駅舎やホームを作り直すイメージに近いのかもしれない。
プロフィール
岡政次(おか まさじ)
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 協創企画推進室
三重県出身1959年生まれ。1977年シャープ株式会社に入社。本社IT部門に在籍、10年強の新人教育、標準化・共通システム化を担当。さらにシステム企画担当として、ホスト撤廃プロジェクト、マスター統合、帳票出力基盤の構築等に携わる。2007年4月、ウイングアークテクノロジーズ株式会社に入社。現在、経営・エンドユーザー・IT部門の「三方一両“得”」になるIT基盤構想を提唱し、「出力HUB化構想」を推進する。
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