【第9回】「国際優良銘柄」の企業はやめにしよう:ミドルが経営を変える(2/2 ページ)
「経営に面白さを感じる会社はあるか?」という質問を投げ掛けたところ、大学生も経験豊富なビジネスマンも同じく国内の優良企業を挙げた。視野を広げるためには果たしてこれでいいのだろうか。
優良銘柄はやめにする
しかし、こうした国際優良銘柄という企業を調査しても、正直なところ、その分析結果が頭の中に残っていることはあまり多くない。わたしだけでなく、調査したビジネスマンからもそうした声が聞かれた。
公刊情報にくわえて、当該企業に実際に足を運びヒアリング調査したこともあったが、先方が調査慣れしていて、よくできたパワーポイントの資料で説明を受けただけという経験は少なくない。質問側の技量の問題もあるだろうが、出てくるのは公刊情報とさほど変わらなかった。
この経験を踏まえて、ある時期から研修では、わざわざ調査しなくても容易に企業情報が手に入るいわゆる国際優良銘柄に注目するのをやめた。代わりに、地味ではあるが、しっかりとした経営をしている企業を探し出してきて、調査するように提案した。例えば、大手と比べて人材採用に苦しむ中堅企業の中で、ひときわ人材育成に注力している会社を見つけ出し社長に話を聞かせてもらえれば、新たな視点からの気付きが生まれるはずである。
知らない会社ばかりだ
研修に参加するのは経験豊富なビジネスマンたちだ。わたしたちが知らないさまざまな企業の名前が挙がってくるものだと予想していた。しかし現実はそうではなかった。
「取引先のことぐらいしか……」
思いのほか、ごく限られた会社のことしか知らないという人が多かったのだ。日々仕事に追われており、取引先以外のことは分からない状態だった。では、取引先のことを本当によく知っているかといえば、これも怪しいものだった。取引している商品やサービスについては把握しているが、それを生み出した戦略立案の仕組み、戦略実施にかかわる人材の採用、育成の仕組みに至るまで熟知している人は少なかった。
いろいろな会社の事例を調べていく過程で取引先の企業が登場して、「設備更新の時に名前を見るあの会社、そんなにすごい会社だったんだ」、「なるほど、採用や教育で面白いことをやっているとは聞いていたけど」といった驚きを彼らはみせていた。
戦略や戦術の立案手法の見直し、事業コンセプトの練り直し、人事制度の刷新など、実は身近なところに、あなたの指向を刺激する「宝物」が眠っているかもしれない。
プロフィール
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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