組織に奉仕し利益を生み出す――「サーバントリーダーシップ」:経営のヒントになる1冊
部下や組織に対して思いやりや奉仕の気持ちを持って行動する、そうしたリーダーがいま求められているという。
「組織が求めているのは、強いリーダーシップだ」と語られるとき、どのようなリーダーを思い浮かべるだろうか。多くの人は、カリスマ性を秘め、部下たちをぐいぐい引っ張っていくリーダーを想像するかもしれない。しかし本書で提示するリーダー像は、その姿とは一線を画している。常に組織全体の利益を中心に置きながら、周りの人間を支援する「奉仕するリーダー」、そして奉仕することによって全体をあるべき方向に「導いていくリーダー」、それこそが本書が示すリーダーの姿だ。「サーバント」とは翻訳すれば「召使い」だが、「部下の言うことを何でも聞くリーダー」という意味では決してない。
本書は、1977年に米国で出版。その後、多くの研究者たちに多大な影響を与え、名著として読み継がれてきた。その25周年の記念として出版されたのがこの新版だ。『最強組織の法則』で知られるピーター・センゲが解説を、『7つの習慣』のスティーブン・コヴィーが序文を寄稿している。
著者は、ロバート・K・グリーンリーフ。本題である「サーバントリーダーシップ」の提唱者であり、実践家でもあった。大学卒業後、当時、世界最大規模のAT&Tに就職し、ほどなく研修コースの指導者に任じられる。その後36年間、同社のさまざまな役職を経験した。そうした実体験が積み重なって、知見として昇華したものが、この論の土台を成している。
早期退職後、彼はハーバードビジネススクールやMIT(マサチューセッツ工科大学)などで講義し、多くの企業や財団でもコンサルタントを務めた。その合間に、サーバントリーダーシップについて、数々の発表を行った。そうした論文や講演を集大成したものが本書だ。理論が生まれる基となった出来事や人物について詳しく語られているのはもちろん、この理論を活用するためにはどういった体制を必要とするかが、企業、学校、財団、協会といった各組織に応じて詳細に書かれている。
また本書では、サーバントリーダーの根底には、個人としての「倫理観」があると説かれている。これは今後の重要テーマといえよう。そもそも、グリーンリーフが「サーバントリーダー」という概念に至ったのは、時代的な背景が大きい。当時、国のリーダーたちが戦争を起こしたり、公民権弾圧を行ったりなど、理想に反した行動を取っていることに多くの若者は幻滅していた。それは現代にもつながる。個人の中に「倫理観」が醸成されなければ、私的な利潤追求の結果、組織の崩壊へと帰結することもある。自分のことだけを考える管理者をけん制する組織をどうすれば構築できるか、組織の「倫理」をどうすれば全体に行き渡らすことができるか、といった視点でも示唆に富んでいる一冊だ。
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