【第18回】新入社員が非常識な質問をするのは当然だ:ミドルが経営を変える(2/2 ページ)
4月を迎え、今年も多くの新卒社員が企業に入ってきた。彼らが口にする無邪気な質問に頭を悩ませる上司も多いだろう。しかし、改めてじっくりと耳を傾けてみると、決して見当外れなことばかりを言っているわけでもないのだ。
上司も現状の仕事に疑問を持つべき
こうしたときにはぜひ、仕事の進め方について「そもそも、どうしてこうなっているのか」と一考いただきたい。「つべこべ言わずにさっさとやれ」と新入社員のお尻を叩いた後でも結構。帰りの電車の中で、自らにも素朴な問い掛けをしてもらいたい。
もしかすると、性格が細かいだけの経営者が何代も続いてしまい、時間や金銭のロスを顧みることなく重箱の隅をつついたような資料を作成することが、ミドルの出世街道一番乗りの手段だったのかもしれない。あるいは、インフラ系企業などひとたび事故を起こせば大勢の命を奪いかねない会社が、「細部にまで目を光らせる」、「お客様の安全のために」という意識を社内に植え付ける方法として、細かな資料作成を推進しているのかもしれない。
目の前にいる新入社員は、社会人の世界と学生の世界、わが社とわが母校、わが業界の内外といった境界線上に立っている。上司に「さっさとやれ」と言われて、指示に従いつつも、「なぜ」、「何のために」と自問できる新入社員は少なくなかろう。しかし、愚痴のレベルを超えて、きちんと自答までできる新入社員はいるのだろうか。彼らの答えを導き出す役目を果たすのはミドルである。ミドルは、経営者ほどわが社、わが業界に染まりきらずに、さまざまな事情には精通している。仕事の進め方の見直しに着手できる適任がミドルだ。もちろん、見直すべきでなければ、それを現場に近いところで説明できるのも彼らだ。
新入社員の素朴な問い掛けから生まれる変革は小さなものかもしれない。しかし、「そもそも、何のために」という目的追求の発想を持って、新入社員だけでなく多くの人たちからの問い掛けに答えていく。こうした態度は部門のみならず、会社全体、さらには業界全体の変革につながる第一歩になるに違いない。
プロフィール
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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