【第19回】採用は人事部門だけの仕事か?:ミドルが経営を変える(2/2 ページ)
新卒社員の採用は人事部にとって重要な任務であることは間違いない。しかし同時に、企業にとっても将来を左右する大一番である。現場でエース級の社員が自らの仕事を熱く語り、学生の心を揺り動かすべきではないか。
優良企業だが地味さがネックに
学生にとって厳しい状況である。当の本人たちからもそうした声を聞く。こうなると「買い手有利」であるかと思われるが、そう簡単ではない。ミドルの口から漏れてくるのは「学生が来てくれない」との声だ。「合同説明会などで足繁く大学に通っているのだが、学生が見向きもしてくれない」、「他社のブースが満席で、仕方なく来たという学生ばかり」など。いわゆる技術系の地味な会社がその代表である。中堅・中小企業のみならず、東証一部企業の人事の方からも、「理系出身者だけでなく、営業や管理部門でバリバリやってくれる人材を幅広く採用したいのだが」との嘆きを何度も聞く。
そうした嘆きを寄せる会社は、確かに地味な会社かもしれない。しかし、しっかりとした技術基盤を持っている、あるいは、われわれの社会生活に欠かせない製品・サービスを提供しているなど、学生に推薦したい会社は少なくない。恐らく、ビジネスマンとして豊富な経験をお持ちの方も、良しと判断する会社が多いかと思う。筆者も、そうした会社の生産拠点の見学に学生を引率したり、ゼミナールの時間などに「地味だけど、いい会社」について知っていることを説明したりもしてきた。しかし、ミスマッチ解消のためにはまだまだ時間が必要である。
優秀な学生には、ランキングには登場しないが社会を支える基盤となる会社にもっと目を向けて欲しい。そのためには、人材を送りだす側の大学の努力が不可欠だ。この点は反省すべきである。
現場のエースを採用活動に投入せよ
迎え入れる側の企業にもお願いしたい。それは「現場のエース」を採用活動に投入して欲しいということだ。エースが自らの仕事を熱く語り、学生の心を揺り動かして欲しい。採用は人事部門の重要な仕事である。同時に、会社全体の重要な仕事でもあり、これから会社を支えていく人的資源への投資活動なのである。「何とか頭数はそろえました」では決して許されない。
会社説明会の場などに、営業なり研究開発なり、各社の核となる部門のミドル、エース社員が参加して仕事を熱弁することがどれほどあるだろうか。学生の気持ちが分かるということで、若手社員が動員されることは珍しくない。しかし、特に大手企業の場合、エースが顔をそろえる説明会となると、どうだろうか。例えば会社で新しいプロジェクトが立ち上がったとき、そのプロジェクトの真剣度合いを測る重要な指標は、投入資金と参加メンバーである。採用活動はエースが投入されるべき仕事であろう。
最近、採用活動に関するキーワードとして「RJP」という考え方が登場している。専門家である金井壽宏・神戸大学大学院経営学研究科教授は、以下のように説明する。
「企業側からのアプローチでいうと、『リアリスティック・ジョブ・プレビュー』、略して『RJP』という考えもあります。これは、就職する前にその企業が実際にはどんなところなのか、ありのままの姿を見せるというもの。つまり、学生を採用するときに誠実であろうとするなら、自社のいい点ばかりではなく、若干ネガティブなところまでも知ってもらった上で、来てもらったほうがいい。学生の側も、そうした部分を知って、入った方がいいでしょう、ということなのです」*4
エースが自らの成してきた仕事を熱く語る。エースがありのままの姿を語る。そこには、辛かった、あるいは地味な仕事の経験が含まれてもいいと思う。
エースは多忙を極める身である。しかし、10年後、20年後を考えて、企業は人材採用に力を入れるべきではなかろうか。「人事から言われて、説明会や面接に誰か一人出さないといけない」、「誰か行ってくれないか」という意識ではなく、主体的にかかわることで学生の心を揺り動かしていくべきではなかろうか。
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プロフィール
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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