【第2話】 白羽の矢:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
次世代のリーダーとなるべき若手の育成で悩んでいた秦野は、数少ない中途入社組の川口を見込んで、その思いを語った。
社内コンサルタントを作れ
秦野は、思い付いたことを忘れないうちに矢継ぎ早に説明した。「ユーザー企業のIT部門は、システム開発手法や特定製品の知識といった技術スキルを持っているだけでは通用しなくなってきていることは分かるよな。ユーザー部門と対話ができ、自社のビジネスを理解しながら技術を活用して経営上の問題を解決できる力が求められるようになっているのだよ。社内コンサルタントのようなスキルが必要なんだ」
秦野は続ける。「今のシステムの保守や運用は、40代、50代のベテランがきっちりやってくれている。だが、次の10年を考えた時に、君をはじめ、宮下くんや奥山さんのような世代が、ユーザー部門を引っ張って、業務改革や新しい企画にITを最大限に活用できるような指導者にならなくてはシステム部門の存在価値がなくなってしまうと思うんだ」
「それは、僕も前から気になっていました。うちの部署は、忙しいためか、みんな結構保守的だし、ユーザー部門から融通が利かないと思われているような気がします」
「そう、そこで川口くん、君の出番だ。君に次世代のリーダーの育成をやってもらいたいんだ」
川口は、たとえ難しいことでもまずはやってみるというポジティブな性格だ。部長の秦野も、それを見込んだ上で川口に白羽の矢を立てたわけである。
「僕にできることはやりますが、いったい何をすればいいのでしょうか」
「内容は君に任せる。そうだな、とりあえず、毎週火曜日の夕方6時から2時間、君に宮下くんと奥山さんを預けるから、勉強会のようなことをやってみてくれないか」
「分かりました。でも、彼らも業務を抱えていて、毎週決まった時間にちゃんと集まれるか心配ですね」
「それなら心配には及ばん。僕が課長連中にちゃんと説明して、業務として彼らの時間を確保できるようにするから」
「ありがとうございます。やってみます!」
日ごろから尊敬している部長の秦野から「君を見込んで」と頼まれたこと自体が嬉しく、川口には断る理由などどこにも見つからなかった。
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著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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