「上司に怒鳴られながら仕事した30年前、こうしたマネジメントはもはや通用しない」――東レ・橘氏:エグゼクティブ会員の横顔(2/2 ページ)
国内営業18年間、海外勤務10年間仕事に打ち込んできた東レの橘氏は、3年前の2006年4月に米国子会社の社長から購買物流部門の物流部長として帰国を命じられる。製造業では地味な存在だった同部の組織および物流業務に改革のメスを入れ、社長賞を獲得するまでに育て上げた。
頭ごなしに叱るやり方は通用しない
――部下のマネジメントや育成について、どのようなお考えをお持ちですか。
橘 かつてフィルム事業本部にいたときは、エース級の営業マンとしてバリバリ働いていたため、部下を叱ったり、怒鳴りつけたりする軍曹型のマネジメントでした。しかし、10年の米国での勤務経験がそうしたスタイルを大きく変えました。米国人の部下は褒めないと働いてくれないのです。職場は日本人がほとんどいない環境でしたから、米国人のモチベーションをいかに上げ、次々に育成することが業務上不可欠でした。褒めることの大切さを痛感しました。
この教訓は日本の若手社員に対しても生きています。昔のように頭ごなしに叱り付けるやり方はもはや通用しません。褒めながら、思い切って仕事を任せてみる米国流マネジメントを日本に帰国した後も意識して進めています。
部下を伸ばす方法は2つあると考えています。1つは部下のモチベーションを上げること、もう1つは陰ながらサポートして業務の障壁を外してあげて成功経験を積ませることです。例えば、物流部門の部下が営業部門との業務改革、物流企画の調整で苦労していたとしましょう。真正面から助け舟を出しても部下のためになりません。裏から密かに営業部門と話をつけておいて、部下自らの力で問題を解決した形にするのです。ずるいかと思われるかもしれませんが、この成功体験が部下にとっては大きな自信になる時もあるのです。
もちろん部下に試練を与えることも忘れてはいけません。新人のトレーナーを任せたり、わたしの代わりに社外セミナーに出席させたりしています。機会があれば社内の海外研修制度(留学)に積極的に応募させています。今年は同部から合格者が出たので派遣の準備中です。多少仕事が滞っても、若い部下には伸びる機会、挑戦する機会を与えることが重要です。
――入社から今に至る過程において、転機となった出来事はありますか。
橘 1991年12月にフィルム販売部からフィルム貿易部に移ったころが、人生で最も苦しい時期でした。日ごろより切磋琢磨してきた同僚に名門大学の野球部で主力選手として活躍していた先輩がいたのですが、不幸にも米国出張中に現地で急死してしまい、彼の仕事も引き継ぐことになりました。
体育会出身で体力に自信があった彼は、実に数人分の仕事をこなしていたのです。その仕事量は膨大で、休日出社は当然のこと、朝から夜中まで働き続ける日々が続きました。海外出張から帰れば机の上には書類が山積みで、片付けてはまた海外出張へ出る、戻るとまた山積みになった仕事を片付けるという繰り返しでした。本当に辛かった。ですが、この体験があったおかげで、それ以来、どんな困難も苦に思えなくなったのです。若いうちに苦しい経験をしておくことは必ずや将来の糧になるはずです。
最近読んだお薦めの本:
野中郁次郎ほか「失敗の本質――日本軍の組織論的研究」
宮崎智彦「ガラパゴス化する日本の製造業」
デイヴィッド・ストローン「地球最後のオイルショック」
ストレス解消法:
くよくよしないことを心掛けているので、ストレスはためません。気分転換としては、家族で山登りをします。先日は北アルプスに行きました。
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