【第1回】グローバルマネジメントの位置付け:日本流「チーム型マネジメント」(2/2 ページ)
製造業を中心とした日本企業が世界で勝つために必要なもの、それは個人を主体としたトップダウン型マネジメントではなく、協和を重んじたチーム型マネジメントにほかならなない。
緊急課題としてのグローバルマネジメント
1985年のプラザ合意以降、日本企業はこぞって海外に拠点をつくり、事業範囲を拡大してきた。当時、欧米諸国へ進出した日本企業は、現地の文化に合わせた個人型マネジメントシステムを導入した。従業員の職務内容を詳細まで定義し、権限と責任を明確にし、命令と統制を主体とした個人型マネジメントの実践である。その結果起こったのは、不良率(1カ所でも欠陥のあったサンプル品の割合)の増加と生産性の低下、そして現場における混乱である。
日本人にとって、グローバルマネジメントとは自国内の事業運営の延長ではなく、パラダイムシフトを伴う異文化との遭遇でもある。異文化コミュニケーションでは、当事者が共有しているコンテキスト(文脈や状況)によりコミュニケーションの質や量が大きく異なる。低コンテキスト文化の欧米社会では発言内容そのもので理解されるが、高コンテキスト文化のアジアや中南米では、発言内容よりも前後関係や文脈の共有によりメッセージが解釈される。異文化研究の第一人者、G・ホフステッド氏によれば、日本は高コンテキストの代表であり、前後関係や背景でメッセージが左右される文化でもある。(例えば、日経ビジネスオンラインのアンケート、「あうんの呼吸」をやめて組織を強くするなども文化の一旦を示している。)
グローバル化にかかわる日本人は、このコンテキストに依存したコミュニケーションを改善する必要に迫られる。異文化で自社や自分の明快なマネジメントを説明できなければリーダーシップがとれず、外国人から理解されなければ信頼も勝ち取れない。長期雇用を前提とした日本企業では、詳細な職務内容(Job Description)は存在せず、現場の人材の創意工夫と意思決定で仕事の質が決まる。日本企業では当然のことであるが、欧米諸国の外国人には、この現場重視のチーム型マネジメントは理解されにくい。そこで日本人は、前提となるチーム型マネジメントの価値観や目標、スタイルを明快に説明し、相手を説得していくリーダーシップを実践する必要がある。
グローバルマネジメントの全体像
世界規模で展開すべきグローバルマネジメントとは、人(人材マネジメント&リーダーシップ)、マネジメントシステム(意思決定&コミュニケーション)、組織(文化&構造)の3つの要素に分けられる。中でもマネジメントシステムは、人と組織の中間に位置付けられ、グローバルマネジメントを定義する主要素であり、一個人と組織全体のマネジメント範囲を規定する。当連載では、3要素の組織構造や人材マネジメントなどの仕組みを中心としたハードな側面ではなく、組織文化、リーダーシップ、意思決定などソフトな側面について考察していく。答えるべき問いは、いかにして日本製造業がチーム型マネジメントをグローバルで実践するかである。
グローバルマネジメントのタイプは、チーム型マネジメントと個人型マネジメントに分けられる。チーム型マネジメントは、メンバー参加による参加型意思決定を主体とし、民主的リーダーシップ像を奨励し、協力と調和の文化を尊ぶ。個人型マネジメントでは、トップダウン型意思決定を主体とし、権威的リーダーシップ像を実践し、競争と差別化の組織文化を尊重する。これらのタイプ別の原則を組織文化やリーダーシップ、行動規範や業務ルールとして具体化していくことが鍵である。
著者プロフィール
岩下仁(いわした ひとし)
バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。
現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバリゼーションの処方箋”を執筆中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 加速するグローバル人材戦略:【第1回】グローバル経営の全体像を読みとく
トーマス・フリードマンの言葉を借りるまでもなく、世界は“フラット”になり、あらゆる企業がグローバル競争に介入できる時代が到来した。新連載「加速するグローバル人材戦略」では、グローバル経営における人材戦略について、体系的な理論や成功企業の事例などを交えながら、将来のあるべきグローバル人材像を模索する。 - 加速するグローバル人材戦略:【第2回】基本理念が企業の存続危機を救った
グローバル展開する企業において、その指針でありよりどころになるのが基本理念である。1990年代前半、経営の危機にひんしていたIBMは企業理念を再構築することで復活を遂げた。 - 加速するグローバル人材戦略:【第3回】新興国市場を狙うグローバル戦略
かつては低コストで労働力を提供する場に過ぎなかった新興国は、魅力的な市場に変貌するとともに、自らも競争力を高めて大きく経済成長を遂げている。キリン、ナイキ、ネスレなどの事例から新興市場攻略の糸口を探る。 - 米国に依存する時代は終わった
サブプライムローン問題、大手証券会社の相次ぐ破たんによる金融危機、イラク戦争の泥沼化……。巨大な覇権国家を築いた米国が苦境に立たされている。かたやBRICsに代表される新興国の台頭により、世界のパワーバランスは大きく変動している。今まさに日本は“賢い選択”を迫られている。 - 「グローバル戦略の第一歩」――富士通が独Siemensとの合弁を子会社化
富士通は、欧州におけるSiemensとの合弁会社の株式をすべて取得することにより、海外事業の強化を加速させる。 - 徹底した現地主義、トヨタに見るグローバル人材活用の極意
トヨタ自動車に浸透する「現地現物」スピリット。これはトップから作業員に至るまですべての社員が必ず生産や営業の現場に足を運び、自身の目で状況を把握した上で判断を下すことを意味する。こうした現場主義、現地主義は人材面にも反映されている。 - 日本の製造業が世界で勝ち抜くためには――「地球企業への変革」
従来のようにグローバル対応と現地化をやみくもに進めていては、より激化するグローバルでの企業競争に勝機はない。