「国家への強力なコミットメントなくしてロシア攻略は不可能」――ソニーの現地法人社長【前編】:Executiveインタビュー(3/3 ページ)
ビジネスのさらなる拡大を追い求めて、多くの日本企業がBRICsをはじめとする新興市場へ飛び込んだものの、商習慣の違いなどに苦しみ撤退を余儀なくされた企業は少なくない。長年ロシアでビジネスを展開するソニーの現地法人の日比社長に、異国で成功をつかむための勘所を聞いた。
価格を下げる戦略は正しくない
――競合との差別化についてお伺いします。例えば、薄型テレビであれば韓SAMSUNGなどとし烈なシェア争いを繰り広げています。
日比 SAMSUNGは非常に強いライバルです。彼らはロシア市場を戦略的に考えていて投資額も大きいです。韓国企業は、昔は安売りというイメージがありましたが、今はまったく違います。わたしから見たSAMSUNGは質のいいブランドです。プレミアムではないけれど、決して悪いブランドではありません。逆にソニーはプレミアムブランドなので、ブランドイメージはSAMSUNGよりも良いと言えます。ただし商品価格も高いので、すべての消費者の手に届くものではありません。
では、サムスンと同じ価格にすれば勝てるでしょうか。決してそんなことはありません。ソニー製品はプレミアム感をしっかり消費者に訴求していかなければならないので、価格を下げるという戦略は正しくありません。ソニーはソ連時代から製品を提供しているので、技術に対する信頼は非常に高いです。その部分は絶対に譲れません。
これからの課題は、ソ連時代を知らない10代の若い世代や女性に対していかにアピールするかです。若者や女性は技術よりもデザインを重視する傾向にあります。SAMSUNGは比較的安くデザインの良い製品をつくっており、この世代をうまく取り込んでいます。
わたしたちも(ポータブルオーディオプレイヤーの)「WALKMAN」、(デジタルカメラの)「Cyber-shot」、VAIOのカラーリングをすべて統一して、ファッション性を強調したマーケティングを家電量販店の店頭などで行ったりすることで、若い世代にアピールしています。今までの量販店は技術品の展示みたいで暗いイメージがあったのも事実です。
ロシアは世界で最も大きな国土を持つので、商品を流通、販売するかが重要な戦略です。例えば、モスクワからウラジオストックまで飛行機で9時間かかります。それほどまでに広大な国の主要都市をカバーしなければなりません。販売代理店だと手の届く範囲でしか物を売ってくれないので、自ら意志を持って開拓する必要があります。
そこでソニーCISでは、数年前から「X-Day」という全国一斉の店頭強化日を年に2回設けています。人事や経理も含め約400人の全社員が30〜40都市の販売店の店頭に出て、現場での販売促進をサポートします。X-Dayを行うことで、販売店にはもちろんのこと、社員に対しても啓蒙活動になります。当社のビジネスはお客様から商品を買ってもらって成り立っているということを改めて理解させることができます。例えば、お客様と直接接点のない人事や経理でも、会社の売り上げが最大化するためにはどういう人事施策をとればいいか、もっと経理の処理プロセスを迅速化すれば貢献できるといったことを考える契機になります。
こうした活動を長年続けることで、ソニーという会社がロシアにコミットしていることを販売店や消費者に分かってもらえます。商品を値下げしたり、素晴らしいCMを流したりするのは、お金があればできます。しかし、こうした地道な店頭活動を通じてお客様から信頼を得るのはそう簡単にはできません。競合が真似しようと思っても難しいでしょう。地道な積み重ねこそが差別化戦略につながります。
――改めてお聞きします。今後ほかの日本企業がロシア市場を攻略する上で鍵となるのは何でしょうか。
日比 先ほど述べたように、ロシアのルールに従うのが大前提で、その上で自らの企業の特色を打ち出すことです。ロシアでは強いリーダーシップが求められます。よい悪いは別にして、レーニン、スターリン、ゴルバチョフ、エリツィン、そしてプーチンと、古くからロシアは強い指導者を持つという歴史的な背景があります。
企業においても、強いリーダーがいないと社員の求心力は得られません。ただし独裁的では駄目で、人の意見を聞いて最後は責任を取ってくれるリーダーであるべきです。コミットメントする姿勢を社員や世の中に対して見せることが信頼を勝ち取るポイントです。
インタビュー後編「ロシアという名の道場で修行に打ち込め」に続く。
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