【第5話】目線を高く:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
勉強会の初日、「これから何を検討するか」についてのブレインストーミングが始まったものの、日夜現場の仕事に追われている宮下と奥山からは目の前の課題しか挙がってこない。
さまざまな視点
「自分たちにとって身近な問題も現実的でいいが、もう少し大局的に考えてみてはどうだろう」
「大局的…ですか」。宮下が困惑気味に問い返した。
「そう、自分の立場をいったん忘れて、経営者の視点、顧客から見た視点、今回の場合はユーザーの視点ということになるかな。それに外部から見た視点といった具合に視座を変えて考えてみること、加えて、人、モノ、金、プロセス、制度、企業風土などさまざまな領域に視野を広げてみると、もっと大局的な課題が浮かんでくるはずだよ」
川口の導きに応じるように、宮下が「それでは、『情報システム部は頑張っているのに、なぜ社内で評価されないのか』というのはどうでしょうか」と発言した。奥山は少し考えている様子だったが、唐突に「うちの経営陣はなぜITが嫌いなのか」と張りのある声で叫んだ。
「ははは…。相変わらず奥山さんは手厳しいな。でも、いい感じになってきたね」。川口は笑いながら、ホワイトボードに書き足した。
その後、2人からは情報システム部を外部から見たテーマ案が次々と出され、当初と比べて重要な課題点が挙げられたのだった。さらに10個ほどテーマ案が出たところで2人の勢いが衰えてきた。そろそろアイデアが出尽くしたようだった。ブレインストーミングを開始してからすでに小1時間が経過していた。
「少し休憩しようか。実はブレインストーミングの面白いところはこれからだ。あまり深く考えずに次々にアイデアを出していくので、最初は誰でも思い付きそうな平凡なアイデアが出がちなのだよ。もう出尽くしたと思った後に、少し時間をおいて、頭をリフレッシュすると、かなり斬新なアイデアが浮かぶものなんだ。この『最後のひと絞り』が大切なのさ」と川口は2人を元気付けた。
この「最後のひと絞り」は、部長の秦野が実践している「アイデアの作り方」と共通する孵化の原理を応用したものだ。
頭をフル回転させていた宮下と奥山は、ふぅと息をもらした。「まだ、考えるのか」という表情の2人を残して川口はコーヒールームに向かった。
著者プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
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