経営理論を体系化せよ――「経営戦略 ケーススタディ」:経営のヒントになる1冊
著名な学者たちは自説を中心に理論を展開するので、さまざまな理論を体系的に把握していなければ、ある特定の理論が経営戦略論のすべてだという勘違いを起こしかねない。
経営戦略論は米国から発達した学問であるため、主要な理論はマイケル・ポーターやジェイ・バーニーなど米大学者によるものとなる。実は、こうした理論を網羅した著書は数少ない。例えば、ポーターの著書には彼の理論のライバルと目されている「資源ベース理論」という言葉に触れている個所はほとんど見当たらない。一方、資源ベース学派であるバーニーの「企業戦略論」では、ポーターについて触れているものの、日本発の経営理論である伊丹敬之の「見えざる資産」や野中郁次郎の「知識創造の理論」などを特に取り上げていない。
最近では、W・チャン・キムとレネ・モボルニュの「ブルーオーシャン理論」が話題になっているが、深く理解するためにはポーターの競争戦略論とどのような関係にあるのか、体系的な位置付けをつかむことが重要である。
著名な学者は自説を中心に理論を展開するので、読者はさまざまな理論を体系的に学習しないと、ある特定の理論が経営戦略論のすべてだという勘違いを起こしかねない。経営戦略論全体の理解には、多様な理論を体系的に整理したテキストが必要となる。こうした問題の解決を目指すのが本書である。
経営学の理論にはケースの裏付けがある。ケースは戦略の特徴を断片的に学んでも真に理解するのは容易でない。なぜそうした戦略が出てきたのかを知るために、本書では企業の歴史を簡略に紹介している。そのほか、他の経営戦略書では取り上げる機会の少ない、コストリーダーシップ戦略の手段としてのサプライチェーンマネジメント(SCM)や、協調戦略におけるフランチャイズシステムなどにも言及している。
加えて、グローバルな経営戦略をテーマにBRICsを解説したり、インターネット商取引の経営戦略的意義や、「ロングテール」などインターネットマーケティング理論を紹介するなど、内容は多岐にわたる。
ビジネスマンの自己啓発や経営戦略のテキストとして格好の参考書といえよう。
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