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派遣・請負切りはドンドンやれ!生き残れない経営(2/2 ページ)

派遣社員や請負社員への依存体質を抜本的に見直すべきだと気付いた企業こそが未来を先取りできる。今こそ経営改革のチャンスなのだ。

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非正規社員採用のマイナス要因

 実は、人件費の節約を目的とした非正規社員採用は、企業に計り知れない負の影響を与える。まず忠誠心である。請負も派遣も一時的な雇用であることに加えて、敗北感や自虐観を持っていれば、製品やサービスに対する忠誠心が生まれるわけもない。基本的に彼らにとって製品の品質も、納期も、作業能率も、作業改善も、心底から取り組む対象ではない。

 次に技術の伝承である。昔は、作業者に技術を競わせたり、先輩が指導したりした。その中で作業班長などのリーダーが育ったり、あるいは技能オリンピック出場を目指したりして、彼らが現場技術の中核的指導者になっていくことが連綿と続いていた。ところが、今や作業者間の競争もなければ、現代の名匠的な最終目標を目指す作業者もいない。非正規社員80%では、技術の伝承など極めて困難、むしろ忘れ去られている状況だ。

 人材育成についても、まったく同じことが言える。人材育成は座学だけではない。OJTや課題の実践など職場そのものが人材育成の場である。その職場がゆがんでいては、人材が育つはずがない。

総合力が発揮できない組織に…

 総合力も生まれない。企業の総合力は、組織力、コミュニケーション力などによって発揮される。しかし、正規社員が人種差別のような意識を非正規社員に持ち、非正規社員が心の底に常に不満を持っているようでは、互いのコミュニケーションに欠け、組織力はマイナスに働く。事実、ある会社の情報システム部門で自己卑下する非正規社員と、高慢な正規社員との間で確執が生じ、その上、非正規社員の一部に正規社員にすり寄る者が出て、組織が滅茶苦茶になった例がある。

 現場のカイゼン活動も、総合力の欠如の影響を受ける。正社員でカイゼン活動を活発に行っていたときは、身の回りの細かな改善や、うっかりミスを防ぐ方法を従業員がグループ討議で自発的に発案したものだったが、非正規社員が入ると自発性や積極性に欠ける。非正規社員独自でカイゼングループを作っても、忠誠心が弱いので活動が停滞する。

 労働市場や雇用条件も変わりつつある。非正規と正規社員との待遇格差是正の必要性が随所で主張されている。例えば、賃金格差是正のため同一労働同一賃金制を採用すべきだ、正規社員の過度な保護を規制すべきだ、あるいは非正規社員の社会保険非加入を規制すべきだなど、非正規社員雇用による経費節約メリットが薄められる方向にある。

 スペインで契約期限を区切った有期雇用が働く人の3分の1を占め、彼らに対する教育投資の手抜きから労働生産性が落ち、技術革新が遅れ、失業も増加して問題化しているという(朝日新聞 2009年5月15日付)。有期雇用が非正規社員の大半を占める日本でも、労働生産性の伸び悩み、経済競争力の衰退が懸念される。

 こうして検討してくると、非正規社員に頼る体制は正規社員が大勢を占める体制に比べて、質量の両面から企業経営にとって分が悪い。このあたりで当たり前のように行われてきた非正規社員依存の仕組みを、思い切って抜本的に見直すべきではなかろうか。経営環境の悪化で非正規社員を切らざるを得ない今、次に立ち直るときには非正規社員を減少させ、正規社員が大勢を占める体制を確立する決意をしておくべきである。早い時期に決意し実行した者が企業経営の未来を先取りできる。

 そのことについて疑問を感ずるなら、自らの企業について本気で非正規社員体制と正規社員体制とを比較検討することを勧める。条件によって差は出るだろうが、正規社員体制に軍配が上がるはずだ。


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著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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