似非リーダーは軽蔑されるだけだ:問われるコーチング力(2/2 ページ)
イチロー選手が9年連続200本安打という大記録を打ち立てた。彼の姿を見て、真のリーダーについて考えさせられた。
第3者の視点、強い信念を持つべき
米国ではオバマ大統領が公的医療保険制度の改革に取り組んでいる。現在の米国の公的医療保険制度は、低所得者、高齢者、障害者のみを対象としている。そのため、民間保険会社の高額保険料を負担できない一般勤労世帯などの無保険者が約4600万人いると言われている。そんな中で、オバマ大統領は、9月9日に行われた米議会上下両院合同会議で、無保険者の救済と医療費の抑制を目指す必要性について強く述べた。これに対して、保守系市民団体が反発し、ワシントンをはじめ、多くの地域で数万人規模のデモが行われている。
しかし、彼は今この改革に着手しなければ、保険に入れば救済されていたはずの多くの人たちの命をいつまでも救うことができず、不公平が続き、格差が広がるばかりだと考えているようだ。国民のことを心から考え、米国の将来のためにも、断行しなければならないと、第3者の視点に立ち、強い信念を持ってできる限りの努力をしているように思える。長期的な視点に立てば、このようなリーダーは多くの人から認められるし、信頼されるはずだ。
企業経営においても、第3者の視点は不可欠だ。社長の立場や、部下の立場でものを考えるのではなく、顧客のために自分の組織が何をしたらいいのか、どのように発展したらいいかという視点で考える。時に部下とぶつかることがあるかもしれないが、顧客が求めていることを常に考え続け、追い求め、必要性を確信したならば断行するのである。そうすることで、その組織は素晴らしいものになっていく。第3者の視点で考えられないリーダーや組織は、今後生き残れなくなるだろう。
恥ずべき似非リーダー
真のリーダーとは対照的に、似非(えせ)リーダーなるものがいる。似非リーダーとは、自分の利益を優先したり、相手の顔色ばかり見て、課題となっていることに正面から取り組まない人を指す。第3者の視点が根本的に欠けているのである。
この似非リーダーの中でも最も恥ずべきなのは、普段は何もしていないのに、儲かりそうだったり、自分の得になりそうな話がきたときには、それに飛びつき、すべてを自分の手柄にしてしまうような人である。自分はうまくいったと思うかもしれないが、実際には多くの人から嫌われるのである。
何度も言うが、リーダーにとって野心を持つことは大切である。「組織をこんなふうにしたい」「このような事業に取り組みたい」という野心があるからこそ、人は頑張れるのであり、やる気も起きるのである。しかし、いくらその野心があったとしても、自分は旗を振るだけで、実際の仕事は部下に任せっぱなしにしておきながら、おいしい話がきたら、俄然張り切って仕事に加わってくるようなリーダーは、はっきり言って最低の人間である。いつの時代も、自分の損得だけを基準に物事を判断する人は、軽蔑されるだけで、決して信頼されることはない。
イチロー選手は素晴らしい野心を持っている。そして、その野心を実現するためにすさまじい努力をしている。この2つがあってこそ、今回のような偉大な記録を達成したのだ。日々怠ることなく努力を重ね、淡々と成果を収めていく。だからこそ、人は彼を賞賛するのである。
自分自身の日ごろの言動を振り返ってみてほしい。あなたは真のリーダーだろうか、それとも似非リーダーだろうか。是非、野心を持って常に努力する真のリーダーを目指してもらいたい。
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著者プロフィール
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。
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