MBAに対するこだわりを捨て、大胆な改革を断行した「タクシー王子」(2/2 ページ)
マッキンゼー流のビジネス戦略が通用しない!? 創業者一族として日本交通に入社した川鍋一朗・現社長はMBAを武器に経営改革を試みるも、自らつくった子会社を大赤字に。考え方を改めて再び改革に乗り出す。
デジタル無線がもたらした効果
過去の負の遺産を清算する一方で、業務改善に向けて取り組んだ事柄の1つが設備投資である。2005年1月に、同社が当時所有していた約1600台(現在はグループ会社を含む約300台)のタクシーすべてにデジタル無線システムを搭載する。これによって全車両の位置情報がリアルタイムで把握できるため、配車効率が大幅に向上した。従来のアナログ無線だと、コールセンターのオペレーターが乗務員に対して音声通話で顧客情報や行き先などを指示する必要があるほか、顧客から配車要求のあった近辺を走っているにもかかわらず故意に返答しない乗務員がいたりするため、時間的なロスは避けられなかった。
「デジタル無線の導入により、配車効率の課題を解決しただけでなく、乗務員の管理強化にもつながった。以前は勤務中にどこかでさぼっていても分かりようがなかったのだが、今では7秒ごとに全タクシーの位置情報が更新されるため、長時間同じ場所に停止している車両に対してアラームを出すことができる」(川鍋氏)
デジタル無線は社内的な業務改善にとどまらなかった。というのも、デジタル無線を全車両に搭載するには巨額なシステム投資が必要になるため、結果的に日本交通、東京無線、国際自動車といった大手にしか導入できず、業界における競争力の差は歴然となったのだ。
そのほか、川鍋氏による経営改革においては、法人営業に注力し六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど都内14カ所に専用乗り場を獲得することで収益の安定性を図ったり、国際自動車と協力して都内を走る両社のタクシー約5800台にSuicaをはじめとする電子マネー対応の共用決済端末を導入したりするなど、独自のカラーを打ち出していった。
「タクシー業界は、事業を進める上で行政との絡みも少なくない。業界全体を良くするためには、今後は彼らに対して積極的に発言していくことが不可欠だ」(川鍋氏)
※早稲田大学IT戦略研究所が開催した「7周年記念コロキアム」での講演を基に構成。
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