行き詰ったら、考えるのをあきらめろ:つい踏んでしまうプレゼン失敗の地雷(2/2 ページ)
プレゼン資料や企画書を準備する上で良いアイデアが浮かばないという経験は誰しもあるはず。こんなときは、いくら机の上で頭をかかえても、解決策は見つかりません。なぜなら、机上に答えはないからです。
倉庫で見聞きしたことが!
プレゼンが迫ったある日の朝、わたしは出勤前にR電気商会を訪れました。アポイントも取らずに、ぶらっと、その会社の日常をのぞきに行ったのです。
本社の中に足を踏み入れると、営業フロアは電話が鳴り響き、ほぼ全員が電話をとっているような状態でした。とても忙しそうで、これでは話を聞ける状態ではありません。社屋を出たわたしは、倉庫で商品の整理をしていたおじさんに声を掛け、話を聞いてみることにしました。そこで気になる事実をいくつか発見することができたのです。そのメモを紹介しましょう。
(1)倉庫に入って驚いたのは、品数の多さ。しかも取り扱いメーカーが1社固定ではなく、非常に多い。おじさんによれば、ほとんどのメーカーの商品が取り寄せ可能という。顧客にとっては、いろいろなメーカーから選択でき、望む商品がほとんど手に入るという便利さがある。メーカー系列の商社だと、扱える商品が系列会社のものに限定されるが、R電気商会ではその制約がない。
(2)倉庫が大きいのは、本社が名古屋のはずれにあり広い敷地を確保できているからだ。内部はシステム化されているため、注文のあった商品をすぐにピックアップして配送できる。これなら厳しい納期にも即対応できる。しかも高速道路が近く、商品の配送には便利な立地である。
(3)「朝と夕方は戦場だよ」とおじさん。朝夕は顧客からの注文の電話が鳴りやまないという。営業活動はほとんどしていないらしい。欲しい商品が短納期で手に入るので、担当者は営業しなくても注文が次々に入ってくるという。営業フロアで電話が鳴りっぱなしだったのはそういうことか。これなら営業は楽である(営業の皆さん、ごめんなさい。本当は苦労されているかもしれないけど、わたしにはそう見えたのです)。
こんな発見から、R電気商会の特徴と優位性を分かりやすく証明する広告を作成しました。社長から聞いた「成長しているよ」という話を裏付ける「事実」を、おじさんの話から現場で見つけ出したわけです。後日完成した求人広告に、社長は「ふーん、あんたにはそんな風に見えるんかねぇ。わたしにはいつもの風景にしか見えんが」と話しましたが、顔はまんざらでもない様子でした。こうして求人広告のプレゼンは成功し、後日、広告は学生に届けられました。その結果、何名かの応募者があり、求人は首尾良く成功に至ったのです。
応接室でかしこまった話を聞いても、なかなかその会社の実体や本音は分からない。こんな経験はよくあります。そこでわたしは、許される範囲で相手の日常的な仕事場に傍観者として訪問し何が起きているのかを観察し、ネタを拾っていました。
かつて人気ドラマ『踊る大捜査線』で青島刑事が叫んだ決めゼリフ、「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」というのがありましたね。困ったとき、行き詰まったときは現場に戻って考える。刑事の基本は現場に100回立ち戻るそうです。実はプレゼンも同じなのではないでしょうか。
【お詫びと訂正】記事掲載当初、タイトルを「煮詰まったときは、考えるのをあきらめろ」としていましたが、表現に誤りがあったため「行き詰ったら、考えるのをあきらめろ」に訂正しました。お詫び致します。[2009/12/03 19:00]
著者プロフィール
中村昭典(なかむら あきのり)
元リクルート・とらばーゆ東海版編集長。現在は中部大学エクステンションセンターで社会貢献事業を推進。個人の研究領域はメディア、コミュニケーションおよびキャリアデザイン。所属学会は情報コミュニケーション学会、日本ビジネス実務学会ほか。
著書に『伝える達人』(明日香出版社)、『雇用崩壊』(共著、アスキー新書)、『親子就活 親の悩み、子どものホンネ』(アスキー新書)。
ITmedia オルタナティブ・ブログ『中村昭典の、気ままな数値解析』は、メディアにあふれるありとあらゆる「数値」から独自の視点で世の中を読み解くスタイルが人気。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- つい踏んでしまうプレゼン失敗の地雷:会話力
とにかく話術に長けていて社内外のプレゼンに引っ張りだこ。皆さんの回りにもそうしたビジネスリーダーがいるはずです。しかし、話し上手だからといって必ずしもプレゼンが成功するほど甘くはありません。 - つい踏んでしまうプレゼン失敗の地雷:完璧な企画書に潜む落とし穴
「プレゼンテーションは企画が命だ!」という意見をよく耳にする。あながち間違いではないが、どんなに企画自体やプレゼン資料が優れたものであったとしても、プレゼンの方法を誤るとせっかくの企画も台無しになってしまうのだ。 - つい踏んでしまうプレゼン失敗の地雷:豊富な商品知識がアダになる
「新商品の魅力を伝えたい!」。そうした思いからとにかく詰め込んだ知識をプレゼンテーションする人がいる。顧客は本当にそんな話を聞きたいと思っていたのだろうか。 - 「思考の枠」が固まった組織は成長しない
相次ぐ無差別殺傷事件。これは自らの欠点をすべて世の中のせいにするなどという独りよがりな考えが引き起こした結果だという。ビジネスの世界においても、こうした凝り固まった思考は禁物である。 - コンサルタントにはまず「疑いの目」を
コンサルタントの末席を汚している者として言わせてもらえば、コンサルタントに手痛い目に遭ったからといって、IT導入まで敬遠する必要はない。トップ自ら情報武装し、コンサルタントの役割を明確にすれば恐れることはないのだ。