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経営者はBSCで変化に柔軟に対応できる仕組みづくりを――早稲田大学商学学術院・長谷川氏(2/2 ページ)

好景気に伴い企業が業績を伸ばしていった時代はとうの昔に過ぎ去った。現在の劇的な経営環境の変化に対応し、戦略を円滑に見直す上で欠くことができないのが、バランスト・スコアカードだという。

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「戦略テーマ」でBSCの4つの視点に横串を通す

 では、戦略マップの柱となる戦略テーマとは果たしてどのようなものか。長谷川氏はその点について、(1)優れた業務を行うこと、(2)顧客価値を向上すること、(3)新製品・新サービスによる革新を実現すること、(4)良き企業市民になること、を挙げる。

「企業が利益を伸ばす上で、顧客に提供する製品やサービスの価値を高めることが不可欠だ。そのために、(1)から(3)の重要性は改めて説明するまでもないだろう。加えて、CSR(企業の社会的責任)の観点から(4)を戦略策定に織り込むことが欠かせなくなっている」(長谷川氏)

 BSCは、4つの視点の間の因果関係を把握する上で役立つものの、成長に向けた施策の因果関係の可視化には活用が困難な面があったという。だが、戦略マップにより柱を通すことで、例えば従業員のスキルアップ(学習と成長の視点)が、業務プロセスの質の向上や処理時間の短縮(内部業務プロセスの視点)、顧客のロイヤルティの向上(顧客の視点)、使用資本利益率の向上(財務の視点)につながることをより理解しやすくなるわけだ。

 BSCと戦略マップを企業経営に用いるメリットとして、長谷川氏は自社の戦略を従業員に周知徹底でき、組織が一丸となって変化に機敏に対応できるようになる点を挙げる。

「戦略と具体的な目標が明示されることで、組織の末端であっても部分最適な判断を下すことが避けられるようになる。その結果、戦略を基にした施策のさらなる強化を図ることが可能になる」(長谷川氏)

 自社の経営戦略において軸足を置いているのは、優れた業務を行うことなのか、顧客価値を向上することなのか、新製品・新サービスによる革新を実現することなのか――。BSCと戦略マップに自社の施策を照らし合わせることで、経営トップから現場レベルまでその正当性を確認でき、誤った投資を避けることができる。その結果、自社の描く戦略により多くの予算をつぎ込むことも可能になるのである。

BSCの利用にも経営トップの積極的な関与が不可欠

 もっとも、BSCを採用したものの、失敗に終わるケースもこれまで少なくなかった。その理由の1つとして長谷川氏が指摘したのが、経営トップの関与がないことである。これまで、各種の経営改革を軌道に乗せる上で、経営トップが全社を巻き込みプロジェクトを進めることの重要性が長らく指摘されてきた。事情はBSCでも同様なわけだ。

 また、長谷川氏によると、BSCを用いるにあたり、「戦略予算」という新たな概念を取り入れる必要があるという。従来型の予算の組み方では、戦略上重要な施策であっても、利益が低迷している際にはほかの予算と同様、一律にカットされてしまう危険性をぬぐい去ることはできない。そうした事態を避けるため、戦略予算を従来からの伝統的予算と区別し扱う必要があるわけだ。

「伝統的な予算の立て方では、戦略を遂行するための手を講じることが不可能になってしまうことも十分に考えられる。だからこそ、予算管理の新体系が必要とされている」(長谷川氏)

 「経営戦略の重要性がこれほど増していることを踏まえ、企業はBSCと戦略マップを新たな経営システムとして取り入れるべきだ」と提唱する長谷川氏。その利用の裾野は、今後さらなる広がりを見せそうだ。

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