「バック・ソフトボール」は終わらない:小松裕の「スポーツドクター奮闘記」(2/2 ページ)
ソフトボール競技のアピール活動「バック・ソフトボール」は、オリンピックの正式種目に再び認定させるためだけの活動ではありません。そのことをアジア選手権で実感しました。
試合前に起きた珍事件
日本の初戦の相手はインドでした。試合がまさに始まろうとしたとき、主審とインドのキャッチャー、コーチが日本のベンチ前にやってきました。「キャッチャーのヘルメットと、のどあてを貸してくれないか」というのです。主審はキャッチャーマスクだけでは危ないから試合を開始できないと言い、インドのコーチは、インドでは使ったことがないから持ってないよというわけです。用具を貸してあげたいところですが、ブルペン練習でも使う必要があるので、結局、インドチームは試合のない中国チームから用具を借りて、ようやく試合が始まりました。
そんな具合ですから力の差は歴然です。20対0の3回コールドで試合は終わりました。そんなインドチームでしたが、逆にイランチームを相手に27対0のコールド勝ちを収めました。聞くところによると、イランチームは大会10日前に結成されたのだそうです。やはり、ソフトボールが世界に普及しているとは言い難い状況です。
「バック・ソフトボール」は続く
初めて体験する、和気あいあいとした国際試合でしたが、そんな中でも日本チームは全力で戦いました。今大会を通じて、試合に勝つだけでなく、アジアの中で果たすべき日本の役割を皆が感じ始めました。
試合の合間には、地元のマラヤ大学のソフトボール部に向けて急造ソフトボール教室を開きました。選手たちは応援に駆けつけた地元の小学生たちと交流し、「こんなに速い球を投げるの!?」と驚かせるなど、彼らにソフトボールの魅力を伝えました。
大会最終日の夜にはレセプションが開かれ、各チームが壇上で踊りや歌を披露し交流を深めました。「アジアでもさらにソフトボールを普及させていこう」と、日本からイラン、インド、タイの3カ国にボールが寄贈されました。なにしろこの3チームは公式球を持っていなかったのですから。
大会中に出された国際ソフトボール連盟のリリースでは、ジュニアのアジア選手権に初めてイランが参加したことや、ソフトボール場がなくても大会を開催できたことを賞賛していました。どこでも誰でもできるスポーツとして普及させたいという強い思いが伝わってきました。「バック・ソフトボール」は、単にオリンピック種目として復活させることだけが目的ではないのです。
まだまだ「バック・ソフトボール」は続くぞ! 北京オリンピックの金メダルが過去の記憶になりつつあるのはさびしいです。ぜひ、読者の皆さんもソフトボールの試合に足を運んでください。スピード感あふれるソフトボールに魅了されて、きっと応援したくなりますよ。
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著者プロフィール
小松裕(こまつ ゆたか)
国立スポーツ科学センター医学研究部 副主任研究員、医学博士
1961年長野県生まれ。1986年に信州大学医学部卒業後、日本赤十字社医療センター内科研修医、東京大学第二内科医員、東京大学消化器内科 文部科学教官助手などを経て、2005年から現職。専門分野はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ行政。
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