【第2回】P&Gの事例にみるクラウド時代のワークスタイル:ヒトの働き方を変える新・クラウド戦略(2/2 ページ)
世界最大の家庭用消費財メーカーであるP&Gは、かつて経営の行き詰まりを感じていたが、研究開発体制を抜本的に改革し、見事な立ち直りを見せた。その背景には2つの「クラウド」の実現が大きく寄与しているという。
社外の群衆とのコラボレーション
P&Gではこれだけにとどまらず、社外の群衆の英知も活用している。退職した科学者や技術者のネットワークである「YourEncore」や、175カ国12万人の研究者ネットワーク「Innocentive」などの群衆ネットワークを活用し、社内のリソースではどうにもならない問題を解決した。
社外のアイデアを活用した例として「プリングルズ・プリンツ」を紹介しよう。同社のポテトチップス製品である「プリングルズ」の販売強化のために、2005年より米国では1枚1枚のポテトチップスに、スポーツや音楽などに関するクイズや豆知識などを印刷し、パーティーなどでの需要喚起を狙った「プリングルズ・プリンツ」を販売している。この戦略は見事成功し大ヒットを記録したが、ポテトチップスの1枚1枚に絵や文章を印刷する技術は当初、P&G社内には存在していなかった。
食用のインクなどの基礎技術から研究開発に着手すると、相当な投資と時間が必要となる。移り変わりの早い菓子市場のニーズをとらえ損なう危険を回避するため、商品開発チームはConnect&Develop戦略にのっとり、自社にない技術を外部に求めた。その結果、イタリアの大学教授が経営する小さなパン屋がその技術を持っていることを突き止め、すみやかに食用色素や印刷技術を会得して製品改良を行った。技術の外部調達により時間を買った結果、大幅に開発期間の短縮やコスト削減を実現し、無事に米国の旬なパーティー需要をとらえることに成功したのである。
プリングルズの例以外にも、社内外の群衆を活用したConnect&Develop戦略は数多くの成果をあげた。Connect&Develop戦略により新製品の利益目標の達成率は大幅に向上し、業績回復に寄与したのだ。
相乗効果を生み出せ
P&Gではこれまで聖域とされてきたR&D業務をクラウド(群衆)化し、組織の壁だけでなく会社の壁も越えて、世界中の集合知を活用した。研究所に閉じこもり独力で新しいイノベーションを起こすスタイルから、世界中の英知をあたかも自社のもののように使いこなすスタイルへと、研究員のワークスタイルは大きく変化した。
世界中に研究者のネットワークがあるということは、P&Gの研究員にとっては良い意味でのプレッシャーとなった。そこで、本当に社内でなければできないコアな研究にフォーカスし、それ以外は必要に応じて群衆とコラボレーションするという、業務の取捨選択が行われるようになったのだ。業務のクラウド化が進むことで、個別最適型ワークスタイルから全体最適型のワークスタイルへと変化したのである。
ITのクラウド(雲)化と業務のクラウド(群衆)化がワークスタイルに与えるインパクトは、まさにここにある。ITのクラウド(雲)化による最も大きな変化は、業務がファイアウォールの外に出て、そのまま業務のクラウド(群衆)化に移れる点である。前回紹介した経費精算システム「Xpenser」のように、クラウド(雲)とクラウド(群衆)が組み合わさることで、より高い価値が生まれる。
企業でクラウド(雲)化の議論をする際、ITインフラ面での検討は重要だが、もう1つのクラウド(群衆)を意識し、この業務はクラウド(群衆)化できるのか、できるとすればどのようなメリットがあるのかを考えることでワークスタイルの変革を実現できるのである。
著者プロフィール
吉田健一(よしだ けんいち)
リアルコム株式会社 取締役 COO
一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。リアルコムでは、マーケティング、営業、ビジネスコンサルティング部門を統括し、顧客企業における情報アーキテクチャーのデザイン、情報共有、ナレッジマネジメント、企業変革プロジェクトを指揮する。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益をもたらす〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。
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