小6女児自殺事件に見る“顧客が求める満足感”でなく“わが社にできること”:生き残れない経営(3/3 ページ)
「真のマーケッティングは、顧客からスタートする」「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足」はどこへ行ってしまったのか。しかし顧客無視は、企業だけではない。
知人には、軽い後遺症が残っている。SN病院でのこの種の例は、いくつも経験している。病院の体質なのだろう。
次は、好例である。現在通院しているKセンターK病院は、医師のインフォームドコンセントが素晴らしく、看護師や事務員の対応も良い。筆者の病状の関係で他の診療科に廻されることがあるが、どの医師も優れている。タクシーの運転手も、「あの病院は、先生が親切で評判がいいですよ」と言う。センター長や医事長に尋ねてみたが、特別の教育などしていないと言う。長年の間に各人の努力が積み重なり、病院の体質として定着したのだろう。たまたま先日は、患者対象の「よりよい病院づくり」のアンケート調査をしていた。
公的サービス機関は、「貢献と成果のためではなく、そこにいる者のためにサービスしているとの不満がある。マネジメントの間違いの最たるものというべきである。」(P.F.ドラッカー 上掲書)。公的サービス機関が目の前の取り繕いに執心することに対する忠告である。
食事処の例だ。ごく最近連れと2人で御茶ノ水へ行ったが昼食時になり、しかし用件が迫っていて時間がないので、駅近くの早くできそうな食事処T店に入った。一番早くできる昼食を注文すると、「マグロ丼」が出た。ところが、すべてのマグロ全体にものすごい固い筋があって食べられない。筋が歯に強烈に食い込み、中々取り除けない。2、3口丸呑みしたが、食べることを諦めた。
連れは、マグロをしごいて食べていたが、これも早々に諦めた。580円と安いので仕方がないと思ったが、こんな安かろう悪かろうは初めてだ。チェーン店のようだが、もう2度と入る気はしない。後日、試しにT店に近接するS店に入った。S店は小奇麗な大型のT店に比べ、狭く古い店だ。「お任せ海鮮丼」\500を注文してみた。数種類の刺身が入った丼で、美味だ。店長と話ができた。店長曰く「ウチは、お客様に満足頂けることを常に考えています。安かろう悪かろうは、間違ってもやりません」。S店店長の言葉には重みがあり、「顧客創造」の強い信念が覗える。T店は「我々は何を売りたいか」を考え、S店は「顧客は何を買いたいか」(P.F.ドラッカー 上掲書)を考えている。
「顧客こそが企業の基盤である。顧客こそが企業を存続させる。顧客こそが雇用を生み出す。その顧客の欲求とニーズに応えさせるために、社会は富を生み出す資源を企業に負託する。」(P.F.ドラッカー 上掲書)それは、公的サービス機関についても同じである。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 放置されたタダ乗り迷惑社員をクビにできないか
- 製品の品質には企業の本音が表れる
- ドラッカーの真意と夢にまでうなされたプロフィットセンターの実態
- 組織外の情報こそ必要なのに内部情報にこだわる経営者
- 日本のCEOは状況を正しくみている? いや、ずれているだけではないか
- 「強い会社の秘訣」は「弱い日本の秘訣」の構図を見抜け
- 高校野球女子マネジャーにも劣る経営者たち
- 不毛な総論はもう結構、有効な方法論を示せ
「教育をするという企業風土」がB社の中にはない。口先で「部下を教育しろ」と叫ぶだけでなく、企業風土を根付かせるのがトップや経営者の責務である。 - 顧客第一なんて、企業が本当に考えられるのか
営利を目的とする企業が、果たしてすべてに優先して「顧客第一」を考えられるのか。本音の議論をしてみたい。 - 戦略および政策決定プロセスの怪
奇々怪々の戦略/政策決定プロセスが少なくない。どんなプロセスで経営戦略や経営政策が決定されていたのだろうかと訝らざるを得ない現象が幾つか起きている。 - 永遠のパラドックス「今どきの若者は……」に決着を
「今どきの若者は何を考えているか分からない」というのは、いつの時代も語られる。だが嘆く前に教育するのが経営者の義務である。 - トップにもの言えぬ社員――かつての軍部とよく似た会社
戦時中の日本海軍に関するドキュメンタリーを見ていて気が付いたことがある。それは、現在の企業に通じる事象があまりにも多かったことだ。 - 密室商法の現場に潜入、そこから学んだこと
駅前を歩いていたら主婦らを相手取ったたたき売りが行われていた。これはと思い店の中に入ってみると……。 - 辞めたホステスを部下に呼び出させる ヒラメ部長の愚行
にわかに信じがたいことだが、世の中には次々と愚かな行動をとる経営幹部が多数存在するのだ。まったく呆れ返ってしまう。 - 課題の本質が見えない経営陣――接待に明け暮れ給料払えず
企業が抱える課題を明確に理解せずに、見当違いな行動を取るトップがいるとは嘆かわしいことだ。彼ら自身が変わらない限り、その企業に未来はない。 - 「居眠り社長」が連絡会議で聞きたかったこと
ITベンダーとのやりとりの中で一番大切なのは、ユーザー企業ともども適度な緊張感を持って導入に臨むことだ。 - そもそも何かがおかしい――役員が社内で長時間PC麻雀
Web2.0、はたまた3.0という時代に社内のインターネットによる情報収集を禁止している企業が、まだまだある。禁止か開放か、時代錯誤さえ感じるテーマから見えてくるものは、やはり企業風土の持つ重みだ。 - 生き残れない経営:派遣・請負切りはドンドンやれ!
派遣社員や請負社員への依存体質を抜本的に見直すべきだと気付いた企業こそが未来を先取りできる。今こそ経営改革のチャンスなのだ。 - 生き残れない経営:「赤字を消すために人殺し以外は何でもやれ!」――経営現場にはびこる勘違い
アメリカから入ってきた成果至上主義が日本企業にまん延し、経営者やリーダーの号令の下、従業員は企業の理念を忘れ、利益に目を血走らせている。こうした企業が未来永劫生き残っていくのだろうか。