新しい企業価値の創造とその支援活動に奔走──クオンタムリープ 出井伸之代表取締役:石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/2 ページ)
グローバリゼーションが喫緊の課題という企業が多いが、出ていく方にばかり目を奪われていないだろうか。アジアにとってまだ憧れの国だという日本に呼び込む価値を見落としていないか。グローバルな視点で日本の将来を語る。
ABC戦略とは?
日本企業の現況に苦言を呈する出井さんが提唱するのがABC戦略です。XYZを現在のものの延長線とするのなら、ABCはまったく新しいもの。同じ意味で、日本の政府もすべてXYZの路線だといいます。
つまり、今の富から税を徴収するという考え方で、将来の富から徴収するという考え方はありません。将来の富とは、自分たちの子供にツケを回すという意味ではなく、新しいビジネスを創出しその富を拡大し投資してもらうという意味です。
最近、よくいわれることですが、香港やシンガポールという都市に日本の都市は完全に遅れをとっています。丸の内や銀座が実社会として世界に誇れる都市でありながら、中国に飲み込まれることを恐れた香港の金融への注力、マレーシアから独立を余儀なくされたシンガポールの魅力的な都市計画に、水をあけられてしまっているのです。
出井さんが若い頃はニューラテンクオーターというナイトクラブが赤坂にあり、ナット・キング・コール、ダイアナ・ロスなど世界中のミュージシャンが駆けつけたといいます。今の日本には着飾っていくところがなく、遊びや夢が東京から失われてきています。それを回顧主義だと片付けてしまっては発展はありません。
東京を中心に東日本を再生し、魅力的な都市への投資を促す
東京を、東洋1、世界1、GDPがナンバーワンだけでなく、楽しいエンターテイメントの街にできるはず。東京湾を利用して本当の意味のエコシティーをつくる。そこにはギャンブルのみのカジノではなく、ショッピングモールがあり子供も遊べ、ハンサムな男性と綺麗な女性が集まる華やかな街にできるはず。トヨタもホンダも撤退したF1を復活させ、ボタンひとつで追い抜きをかける電気自動車のF1でもいい。安全で三ツ星レストランはパリより多い東京に人々は訪れたいと思う。ベンチャーのインキュベーションセンターがあり、オリンピックを開催する。世界中の人があこがれる街にできるはずです。さらに、香港やシンガポールのように一極集中ではなく、東北を再デザインして、役割分担と共生ができる東日本経済圏をつくりなおす。そんな新しい魅力的な経済圏に対して、投資家に投資をしてもらう。
世界には、今、多くのソブリンウェルスファンドが存在します。ソブリンファンドとは政府系の投資公社です。マレーシアのKNカザナ・ナショナル、シンガポールのテマセク・ホールディングスとGCシンガポール政府投資公社、ノルウェーのGPFノルウェー、韓国のKIC韓国投資公社と、その規模と投資意欲は他に例を見ません。出井さんは、日本や東京にも、このソブリンウェルスファンドをつくってほしいと願っています。ない袖はふれないので、税金から費用を捻出するのではなく、日本の政府で主導するソブリンファンドとマッチングさせ、東日本復興というビジネスモデルに海外のソブリンファンドの投資を促します。
アジアを常に意識しアジア各国にネットワークを広げる出井さんは、アジアの多くの人たちが日本のファンだということを日本人は忘れているのではないかと警鐘を促します。日本に別荘を持ちたい、日本でスキーがしたい、マンションを買いたい、いい学校に行かせたいなど日本に来たいと考えている人はさまざまです。シンガポールの政策のように、現金預金がある人たちに永住権を与えるという発想もあり、アジアの富裕層が日本を選択のひとつに入れることで、日本は開かれていくのではないでしょうか。
グローバルゼーションの声は片面のグローバルではないかと出井さんは言います。グローバリゼーションといえば、「行く」グローバリーゼーションばかりに目が行きますが、「来る」グローバリゼーションを実行し、日本をアジアに開かれた国にしないかぎり、アジアをリードする国にはなれません。優遇税制もそのひとつなのです。
ヨーロッパの市場が次々と崩れていっています。ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリア、これらの投資活動が止まったとき、現金は日本に流れ、円買いがさらに盛んになると出井さんは懸念しています。国債の外国人保有率も上がります。日本は国内から海外へ資本が一斉に流出する資本逃避であるキャピタルフライドを経験していない国。増税で日本のファミリーが出て行く前に、日本を魅力的にすることがグローバル化における最初の取り組みではないでしょうか。
週末の軽井沢
出井さんの週末の過ごし方が軽井沢であるのは有名な話です。日本の加工食品のおいしさに目覚めた出井さんは、自らコック長として腕をふるっています。また「チャーリー&エンジェル会」を主催。自らチャーリーとなりエンジェルたちにおいしい食事をふるまい、日常のしがらみから救っています。
著者プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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