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「X経営」の実践こそがグローバル市場における日本企業の本質的な勝ち方ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

“失われた20年”と言われる不況の時代にも、成長している企業はあった。その企業がどのように成長したのかを学ぶ方が、失われた20年を嘆くよりも有効ではないか。

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 粗利率80%を厳守し、それ以下ならば参入しないのがキーエンスの原則。そのために一般的な企業ではコスト削減を考えるが、キーエンスでは価格から入る。費用対効果の高いところほど、価格をとりやすい。そこで、キーエンスはセンサーに目をつけ、そこに特化して事業を展開している。価格の次に考えるのは、ボリュームである。ボリュームとは、どれだけ広く売れるか。100社以上の顧客が期待できなければ参入しない。これにより固定費を下げることができる。

 最後にコストの削減である。粗利率80%を厳守するためには製造コストを20%にすることが必要。生産量全体のうち、10%を自社生産し、設計からモックアップ、金型作成までを行い、量産体制を確立した後に残り90%の量産を社外にアウトソーシングするという方法で行っている。量産設備を自社に取り込んでしまって、固定費に縛られてしまう日本のメーカーとは真逆の発想といえよう。

 「設計も生産もできるだけシンプルにすることで、製造コストの安いところにアウトソーシングしながら、高品質なもの作りを実現している。他社が参入してコモディティ化した段階で、その分野から撤退することも特長といえる。この他社にはまねできない経営モデルがキーエンスの強みとなっている」(名和氏)

かけ算だけでないX経営で重要な3つのポイント

 タイプXの経営モデルにより勝ち組企業100社の6位に位置するユニチャームは、紙おむつと生理用品を中心とした製品を製造、販売している。圧倒的に強い花王が相手では日本での製品展開が限られており、生き残りに必死だった。そこで1980年代初めにあるコンサルタントの提案により、ホワイトスペースであるアジア市場でナンバーワンになることを目指す。

 結果としてユニチャームは、インドネシアとタイで国民的ブランドになっている。このときアジア地域で展開した戦略が、「マスステージ(次世代ボリュームゾーン)戦略」である。マスステージとは、マス(大衆)とプレステージを組み合わせた造語。プレステージが購入することで社会的地位の高さを証明する高額商品であるのに対し、マスステージは高品質で安価(スマート・リーン)な商品を意味している。

 「衛生に敏感なインドネシアやタイの母親たちは、オムツは外で使うことが多いので、赤ちゃんを汚いテーブルに寝かせなければならないテープ型ではなく、立たせたままで着脱可能なパンツ型を求めていた。しかしパンツ型はテープ型に比べ、製造コストがかかる。そこでアーキテクチャを変更し、低コストで製造可能なパンツ型の紙おむつを開発した。現地のニーズを徹底的に調査し、本当に必要な商品を提供したことがユニチャームの成功の鍵である」(名和氏)

 また、勝ち組企業100社の10位に位置する日東電工は、電子部品、産業用製品の製造、販売を事業として展開している。日東電工のイノベーション創出型事業モデルは、三新活動と呼ばれている。三新活動とは、常に新製品開発と新用途開拓に取り組むことで、新しい需要を創出する取り組みである。ただしまったく新しい製品を開発するのではなく、今までの製品を別の用途に展開したり、新しい技術を使った製品やサービスを既存顧客に提供することにより、新たな市場を開拓している。

 例えば半導体の製造で培った技術を生かし、水処理プラントサービス事業という新たな事業を創出している。半導体の工場では大量の水を使うので、この水を浄化して再利用する半透膜を開発した。その当時、この水処理の仕組みは、多くの半導体工場に導入された。

 その後、半導体工場が減ってきたことから、水処理設備のメンテナンス事業にビジネスをシフトしていた。そうこうしているうちに、世の中で水不足が問題となって急浮上。そこで、海水を淡水に変える仕組みが必要になり、水処理の仕組みを応用して海水を淡水化するモジュールを開発。この海水から淡水に変える仕組みをサービスとともにグローバルに展開している。

 勝ち組企業100社の100位に位置するシマノは、世界の自転車ギアの70%のシェアを持っている。シマノでは、いかに空気抵抗を少なくし、フレームを軽くするかに取り組んでいる。モータリゼーションの影響により自転車は超高級か、超コモディティかに分かれてくるとシマノは判断した。

 そこで得意とするR&Dは日本が中心だが、シンガポールのプラットフォームセンターを拠点として、グローバルマーケティングを展開。イタリアに高級製品のハブを置き、競技用自転車を開発して販売。今年も、ツール・ド・フランスの1〜6位がシマノ製だった。高級自転車での「シマノブランド」を確立しつつ、そのブランドを武器に台湾でちょっと高級なコモディティ製品の開発を行う。これで高級製品、コモディティ製品ともに提供している。違う人種の知恵を借りながら、それぞれが得意とする分野で活躍することでグローバル経営を成功させている例である。

 47位の空調機器のダイキンは最近難しいと言われている中国に、1996年に後発ながら進出しBtoB市場で成功を収めている。ちょうど中国は北京オリンピックや上海万博に向けて建設ブームの時期で活況だった。優秀な営業を日本から送り込み、設計会社にダイキン製品がベースになるCADシステムを提供し、早く正しく設計できるようにした。ビルの完成を急ぐため必然的にダイキン製品が選ばれ、かなりの数が導入された。地元の会社も儲かり、さらに売るという好循環が生まれている。

 また、BtoCにおいては優れたインバータ技術を持つダイキンが、低価格で大量生産を得意とする格力電器と提携し中間層のマーケットも攻略している。自社の要となる技術を他社に提供することに対し社内の反対もあったが、こういった大胆なグローバル戦略で名実ともに世界一の地位をつかんでいる。

 名和氏は、「X経営のXは、事業モデル構築力×市場開発力が本質であるが、さらに実現に近付くための3つの重要なポイントがある。1つ目は「飛び地」の新規事業を目指すのではなく、既存事業をずらす“eXtension(拡業)”。2つ目は同業他社ではなく異業種と協業する“Cross(X)coupling(異結合)”。違うスキルやアセットを持った会社と組むことで新たな市場を生み出す。そして3つ目は現地に出向いてスキルを輸出する“Trans(X)national(和橋)”である。江戸時代鎖国の前、和橋はタイやカンボジア、ベトナムなど東南アジアで活躍していた。ぜひとも現地に赴き日本の強さを海外に広げて、事例として紹介した企業のように新たな成長へつなげてほしい」と話し講演を終えた。

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