「塚田農場」はなぜ生産性が高いのか──社員が意気に感じ楽しんで仕事をすること:気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(3/3 ページ)
自社農場をつくったのはメーカーや問屋を通して仕入れるよりも、安いという発想だった。自社農場が地域活性化につながり、社会に貢献している意識が社員を奮い立たせ生産性向上につながった。お金のためではなかった。
臆病さゆえに、リカバリーがきく挑戦しかしてこなかった
中土井:米山さんの場合、見たことのない景色を見たいというチャレンジ精神と、周りからの刺激を取り入れていく柔軟性がバランスよく両立されているように感じます。
米山:自分自身に絶対的な自信を持っていないので、その時その時で、周りの人が発する言葉や発想に「それいいね」と飛びつくことが多かったように思います。今、語っていることは、私が考えてきたことというよりも、私の周りの人間の考えや話していたことの蓄積です。人の顔色をうかがう、もともとの臆病な性格も影響しているのかもしれません。
中土井:チャレンジし続ける大胆な面と、自信がなく臆病という両方の面を自分でも認識しているんですね。
米山:基本的に臆病なので、ビジネスでも大胆な賭けに出たことはありません。自社農場を作ったというと、農場を持つのはリスクではなかったのかと言われますが、土地代と建設費用などを合わせても500万円ほどの初期投資でできました。たった500万円の投資で、自社農場を持っている居酒屋という看板を持てるのであれば、リスクではありません。最初の店舗もできるだけ費用をおさえるために居抜き物件からスタートし、借金をしないですむようにしていました。
リカバリーのきく挑戦しかしないということが私のものさしです。失敗したら、自己破産しなければならないような挑戦は、無謀なだけです。
組織で最も重要なのは、一人ひとりが意気に感じて仕事ができているかどうか
中土井:利益を優先していた頃の経験、臆病で自信がないところがある自分、一見ネガティブな面でも、そのままの自分を許して隠すことがないからこそ、米山さんの考え方が組織に反映されているのではないかなと思います。米山さんは組織をどのようにとらえているのですか。
米山:組織で最も大事なのは、それぞれのポジションで、それぞれの人間が意気に感じて仕事ができているかどうかだと思います。私は、その人がやりたいと思って仕事に取り組んでいるのかがいつも気になります。もし、あまりやりがいを感じていないのだとしたら、どんな目的を持たせたら意気に感じてくれるのだろうと考えます。やりたいことだったら、自主的にやるようになりますよね。私たちは与えられなくても率先して動き出す人間の集まりでありたいんです。
そういう考えのもとで成り立っているので、エー・ピーカンパニーはすごく自由度の高い会社です。たとえば、出勤時間のきまりは一応ありますが、アイデアを出すときにカフェで考えた方がアイデアが出やすいということだったら、カフェで仕事をしたっていい。高い自由度の中で、社員に仕事を任せ、最終的に成果を残してくれればいいんです。
中土井:米山さん自身が自分に正直に生きてきたことが組織のあり方に色濃く反映されている感じがしました。社員一人ひとりに対して自分に正直に生きることを推奨されているんですね。
米山:私は社員とはある意味対等だと思っています。社員を幸せにするなんておこがましいことは言いません。幸せは自分でつかむもの。そのための環境はいくらでも用意します。意気に感じて仕事ができる機会を提供し続けることが私の役割です。提供する商品が生産されてからお皿に乗るまでのストーリーをスタッフみんなと共有することも、意気に感じてもらうための取組みのひとつです。
中土井:異質なものを排除するのではなく、柔軟に取り入れ、好奇心を持って取組んできた米山さんの姿勢が今のエー・ピーカンパニーの礎になっているのだなと感じました。自分に正直に生き、働くということを推奨しているので、社員の皆さんは働くことをとても楽しんでいるのだと思います。それが組織の生産性、推進力につながっているんですね。
対談を終えて
米山社長にお会いする方の多くは、とても自信にあふれ、創業社長らしい風格を感じられるのではないかと思います。しかし、米山社長はご自身のことを「臆病で自信がない」とおっしゃっていました。もちろん、謙遜もあるかとは思いますが、実際にリカバリーの利かない投資を行わず、堅実に経営をされてきたことをかんがみると、ご自身の特性をよく知ったうえで意思決定をされてきたことが伺えます。見たことのない景色を求めて前進していく積極さや大胆さと、浮ついたことをせず足元を見据えた展開をし、一緒に働いている人たちの「顔色」をちゃんと見つめるという繊細さが確実な成長を下支えしているように感じました。
大胆さと慎重さの両立を一人の人間の中で実現するのは不可能なように感じられますが、大胆さと繊細さは相互に補い合う両立可能な資質なのかもしれません。
プロフィール
中土井 僚
オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。
社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 組織マネジメントの本質は、意識の共有によって組織内の人間が同じ色眼鏡をかけていると信じられること
- 極端な変革を嫌う日本の組織風土。組織に手を加えない経営によって、V字回復を実現
- 父の想いを引き継ぎ、2代目女社長は産業廃棄物処理業界の変革に挑戦
- 組織の成長は、徹底的に考え抜かれた原理原則の共有によって加速する
- 「一期一会」の接客の美学をベースに、お客さまの琴線に触れる接客。 それを実現させている組織の在り方、岡本社長の想いとは?
- 「今まで世の中になかったものを」──社員全員が持つ開発魂はどのようにして生まれ、維持されているのか
- 目標達成を主軸とする組織作りが、組織の前進する力を強くする
- 組織のあり方すべてを決定づける「利他」の哲学
- 「外食産業の社会的地位向上」という理念のもと、永遠に成長し続ける組織を作る
- 時代の変化を見越し、進化し続ける企業の組織の在り方に迫る
- 企業理念に97.3%の社員が共感。その秘密は、負けない経営哲学と対話ベースのマネジメント
- 「上司学」から学ぶ、ほとんどのマネジャーができていない、最も大切なこと
- フリーランス感覚が強い集団に(後編)
- クリエーター生態系サイクルを仕組みにする(中編)
- 成長の原動力は会社の生き様をもっと「面白」くという発想(前編)
- 起業家精神を刺激する「ひねらん課」