検索
連載

なぜ、うちの会社はうまくいかないのか?――組織とあなたを支配する8つの基準ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

表向きと実際が違う。中で働く人たちのベクトルがバラバラで仕事が前に進まないということがないだろうか。8つの基準に照らし合わせてみよう。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

仕事がうまく進まないときは、「基準」の認識にギャップがある。

 私自身が、こういった組織の一筋縄ではいかない性質に興味をもったのは、新規事業開発の仕事をしていたときだ。

 確実に儲かるし、競合にも優位性がある。どう考えても優れているはずの企画の評判がよくない。「なぜ?」と問う私に上司は、「うーん、儲かるかもしれないけど、やりたくないんだよねー」と答えにならない答えをする。

 「何がこの人たちにNOと言わせているのだろう?」いろいろ考えてみたが当時はよく分からなかった。

 その後、経験を積み、立場が変わると、当時の上司と同じ感覚を持つ状況に出くわすようになった。提案を聞いた直後の感想は、「よさそうなんだけど、なんか気が乗らないんだよな……」である。

 ただ、それでは上司と同じなので、内省してみることにする。そうすると「それは私たちのやるべき仕事ではない(存在意義)」「その手法はよそならOKかもしれないが、ウチの人間(すなわち自分も)としては、卑怯な方法だと思う(価値観)」「現在の仕事のプロセスに合わないから、社員の仕事のやり方を根本的に変える可能性が高く、受け入れがたい(習慣)」などが思い浮かぶのだ。そして、組織には、明確になっていないものの人々の行動に影響するさまざまな基準があり、それらが自分たちの行動や意思決定を支配していることを実感するようになったのである。

 仕事を進めていく中で、明確な理由がないにもかかわらず、なぜかうまく進まないときや、相手がよく分からない理由で怒っているときは、だいたい先方の何らかの基準との間に齟齬が発生しているのだ。逆に組織において何かを始めるとき、どんな基準が実際に存在しており、その基準に抵触すると、組織や人がどう反応するかを事前に予測することができれば、有効な手を打つことが可能になる。

「ずらずら病」という統合できない病気

 では、ここで、「組織の病気」の具体的な例として、多くの日本企業が罹患(りかん)している「ずらずら病」を紹介しよう。

 打ち合わせをする際に、相手の会社の異なる部署から5人も6人もずらずらとやってきたということはないだろうか(ちなみに私が経験した最高の人数は10人である)。

 こういう企業と仕事をすると面倒くさい状況に巻き込まれる。相手側にこちらのニーズをしっかりとまとめてくれる(統合する)人がいないため、相手の担当者同士の中間に発生しそうな問題にも、こちらが介入して解決しなくてはならなくなるのだ。

 もともと、全体感があり、他部署に対して的確に指示を出して、プロジェクトを進められるリーダー的人物がいるのであれば、各部署からずらずらと人がやってきたりしない。リーダーとサポート役のせいぜい2〜3人で済む。ずらずら来る会社は、統合できる能力のあるリーダー的人物を育ててきていないとも言えるし、組織的にそのような権限をもった職責を作っていないとも言える。

 さて、この病の本質は、「総合」はできても「統合」はしないという組織の価値観と習慣に由来している。

 総合と統合、似たような言葉だが意味合いが少し違う。いろいろ異なるものが1つの傘の下に同時に並存しているのを総合という。総合商社の総合が一番イメージしやすいだろう。きわめて分権的である。

 一方、統合とは、戦略やコンセプトのもとに各要素が収れんしてまとまっていることをいう。その結果、統合では不必要なものは排除され、戦略やコンセプトに合わせて各要素が整合的にまとめられる。そして、こちらはきわめて集権的であり、下手をすると独裁的になる。

 多くの日本企業では、特定の部門出身のリーダーが、どのような優先順位で何を採択し、何を捨てるかについて集権的に決めることを嫌がる。そこで、結果的に「ずらずら」と関係部門のすべてが参加して、クライアントのもとに赴くハメになる。

 しかし、部門代表の集まりの合議体によって作られたプロダクトは、それぞれの部門の観点の最適化を目指した同床異夢の妥協の産物になりがちだ。顧客のニーズの実現に向けて、異なる機能を統合していくよりも、自分たちの部門のやりたいことを押し通そうとする。そして押し通した人をよくやったと部門は評価するのである。

 統合と集権よりも、多様性を認める総合と分権のほうが、排除されない分、社員にとっては明らかに居心地が良いだろう。しかし、顧客のニーズに応えることよりも明らかに自分たちの組織的都合を優先しているのである。こんなことでは、いつまでたっても経営理念に謳ってある"顧客第一主義"は実現できない。そのような矛盾があるにも関わらず、現行の部門第一主義を変えようしようとしないのなら、それはもう"病気と呼ぶしかない状況"なのである。

著者プロフィール:秋山 進(あきやま すすむ)

プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役

プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業からベンチャー企業、外資、財団法人などさまざまな団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。京都大学卒。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。著書に『「一体感」が会社を潰す 異質と一流を排除する<子ども病>の正体』など。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る