どこまでオープンにし、どこまでクローズドにするかがオープンイノベーションの経済学(2/2 ページ)
うちの会社の商品はなぜ売れないのか。理由は、簡単で良くないからである。良い、悪いを決めるのは企業の視点ではなく、顧客の視点である。顧客により良い価値を提供するためには、外部の技術やアイデアを活用するオープンイノベーションが有効になる。
水素自動車が目指しているのは、1890年代に出来上がった自動車のコンセプトを基本的には踏襲している。問題をハードウェアで解決するアプローチである。水素自動車を普及させるために、水素ステーションを各地に作るのが現実的なのか。「これは見たい未来を見ているだけ。本当に来ているのは、見たくない未来である」(米倉氏)。テスラモーターズは、2年間モデルチェンジをしていないと揶揄されるが、ソフトウェアを30回以上更新し、エネルギー効率をどんどん向上させている。
「外見のモデルチェンジをするのは見たい未来であり、ソフトウェアでモデルチェンジするのは見たくない未来である。また海外の住宅はすべて2重窓にして暖房効率を向上させている。一方、日本の住宅は、エアコンが人を追いかけて暖房効率を上げている。これがおかしい。本来の目的は家を暖かくすることであるが、これが日本の家電業界の現状である」(米倉氏)
見たくない未来を実現しなければならない時代では、革新的な技術やアイデアを1社だけで開発することは困難である。そこで、オープンイノベーションが重要になる。
Googleと中央図書館の知識の量
学生に自動車業界の今後の競争戦略についてレポートを提出しなさいという課題を出した場合、Googleで調べた情報をレポートにコピー&ペーストしているのは確かに問題ではある。しかし、Googleを使って調べるという行為自体には何の問題もない。「Googleを使わずに中央図書館へ行け」と言う人はいないだろう。
理由は、Googleに蓄積されている知識の量と、中央図書館に保管されている知識の量が比べものにならないからだ。同様に新しい研究をするときに、中央研究所に行けとも言われない。つまり、外部の力を有効に活用して価値を創造するオープンイノベーションが有効になるのである。
英国の経済学者であるアダム・スミスの"an Invisible Hand(見えざる手)"が評価されているのは英国の一部の時代だけ。20世紀に入り米国が台頭すると、"ビッグビジネス"が世界を席巻する。この状況を解説したのが、米国の経営史学者であるアルフレッド・チャンドラーである。
チャンドラーの著書「The Visible Hand」は、日本では「経営者の時代」と訳されているが、これはスミスの「an Invisible Hand(見えざる手)」に対抗して発表され原著の思いを伝えきれていない。「The Visible Hand」とは、組織における経営効率の方が、市場効率を上回っている状況では、外部の力を利用するよりも、内製化した方が効率的であるということを意味している。今はその逆転が起こっている。
オープンイノベーションは、共同で開発しても販売ルートの奪い合いになるのではないかとか、すみ分けが難しいのではとか、付加価値が出せないのではといった問題を提起する人もいる。「オープンイノベーションを使いもせずに、考えただけでやめてしまうのはナンセンスである」と米倉氏。このようなオープンイノベーションの問題点とされるものは、すべて企業の視点であり、顧客の視点ではない。
米倉氏は、「自社で開発すれば、知識の公開性は低くなるので、知識の占有性は高まるが、知識の管理コストも高くなる。一方、公開されている知識を利用すれば、知識の占有率は低くなるが、知識の管理コストも低くできる。どこまでをオープンにして、どこまでをクローズドにするかが、オープンイノベーションの経済学である」と締めくくった。
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