「ウサギとカメ」の本当の教訓とは?――童話の教えを疑ってかかってみると、人生の本質が見えてくる:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
どうしてウサギはカメに負けたのか、あまりに有名な童話です。ウサギは油断して昼寝をし、カメはコツコツと歩みを進めてウサギを追い抜いた。しかし、これが思わぬ結果をもたらした本当の理由ではない。
元経営者は言いました。
「だから多くの人に、問うておきたいんですよ。あなたの人生のゴールは何ですか、と」
もし、ゴールがないとすれば、それはつまり、カメを見ているウサギになりかねないということです。隣ばかりが気になっていて、ゴールが見えていない。これでは、待っているのは、人生の漂流か難破かもしれない……。
私は改めて思いました。子どもの頃に学んだ『ウサギとカメ』の教訓のひとつは、コツコツと一歩一歩、だったはず。しかし、ゴールがなかったとしたら、コツコツどこに行くのか。それこそ文字通り、漂流か難破ではないか、と。コツコツの前に、人生のゴールを、きちんと定めておかないと極めて危ない、ということです。
私は20年以上、文章を書く仕事をする過程で、いわゆる成功者と呼ばれる人たちにたくさん取材をしてきました。起業家、経営者、科学者、映画監督、スポーツ選手、作家、タレント……。その数は3000人以上になります。
一流の人たちに話を聞く中で、確信したことがあります。それは、「これは当たり前」「これこれはこういうもの」「これはこうでなければならない」といった、世の中に溢れている常識が、いかに裏付けのない、いい加減なものだったか、ということです。実際、彼らはそんなものを信じていなかった。
では、そうした常識は、多くの人々にどこで刷り込まれてしまったのか。もしかするとそのひとつは、子どもの頃から繰り返し聞かされてきた、童話なのではないか、と思いました。そこから、「間違ったこと」を刷り込まれてきた可能性がある。「ウサギとカメ」も、そのひとつなのではないか、と。
そんな仮説のもと、童話を私なりに読み解いてみたのが新刊、「ビジネスマンのための新しい童話の読みかた 人生の壁を破る35話」です。
例えば、「金の斧、銀の斧」。これまたあまりに有名な話であり、正直者であること、が教訓になっていますが、本当に正直であることが大きなチャンスや運につながっていくのか。「ポジティブな嘘」が必要なときもあるのではないでしょうか。
会社員なら、こんなことが起こり得ます。分不相応と思えるチャンスを仕事で提示された。言ってみれば「金の斧」レベルの仕事がやってきた。できる自信はまだないが、それでも「やれます」と受けてしまったとしたらどうでしょうか。そうすることによって、自分の仕事レベルを上げていくことができるかもしれない。果たしてこれは、正しくないことでしょうか。
「自分にはできません」と正直に答えたら、そこでおしまいです。「やれます」と「嘘」をつくから手に入るチャンスもあるのです。
本書では、そんなふうに「疑う力をつける7つの話〜誰もが知っている童話を逆から読む」に加え、「思考力をつける7つの話〜日本の昔話から本当は何を学べるのか」、さらに「習慣を変える7つの話〜知られざる童話から毎日を見直す」「人間関係を変える7つの話〜この小さなコツを知れば対人関係はうまくいく」「うまくいく人になる7つの話〜読むだけでマインドを生まれ変わらせる童話がある」の5つの角度から、さまざまな童話を紐解いています。
書く過程で、たくさんの童話を読み込みました。改めて感じたのは、童話というのは、極めて深いということです。やはり、長く引き継がれているのは、意味があるのです。それだけに、正しい解釈が重要になってくる、と改めて思いました。
童話は子どもの読み物などでは決してありません。大人こそ、童話の深い世界をもっともっと読み込み、表面的ではない深い教訓を考えてみるべきだと私は思っています。
そして最後に大事なことを、問いかけておくことにします。
「みなさん、人生のゴールは、きちんと定まっていますか?」
著者プロフィール:上阪 徹
1966年兵庫県生まれ。リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスのライターとして独立。著書に『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)など多数。インタビュー集に『外資系トップの思考力』(ダイヤモンド社)、『プロ論。』シリーズなど。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品も60冊以上に。
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