SNSの文言や画像でいくら感じよく見せようと頑張っても、ふだんしていることは出てしまいます。「この人は感じがいい」「この人はかかわり合いたくない」ということに対して、センシビリティーを持つことが大切です。
ドアをノックする時は、いつもより少し上のところをたたくように、ふだんの習慣から変えていきます。演出は、特別な時に特別なことをするのではありません。ふだんから条件反射でしていることが、演出として大きいのです。
演出とは、エネルギーを生み出すことだ
「アイデア会議をするのですが、盛り上がりません。会議を盛り上げるには、どうしたらいいですか」と、相談されました。
会議は、一種の舞台です。ブレストでアイデアが行き詰まる時に、一瞬、沈鬱(ちんうつ)な空気が流れることがあります。「何かいいアイデアはないの?」と言われても、固まってしまって何も出てこないのです。
その空気を変えられるのが、演出家としてのリーダーの力です。演出力のある人は、その人が入ってくるだけで空気がパッと明るくなるのです。
私はTOKYO MXの『モーニングCROSS』という朝のニュース番組に出演しています。朝、「おはようございます」と言ってスタジオに入ると、MCの堀潤さんが「中谷さんが入ってくるだけでスタジオが明るくなるな」と言いました。
実は、私が明るくしたのではありません。その言葉を言った堀潤さんが、その場を明るくしたのです。特に、朝の番組なので、暗い出来事があっても、それに負けないで元気よくやっていこうということです。
私は、コシノヒロコさん、ジュンコさん、ミチコさんの3姉妹と親戚です。つきあいも多く、いろんな機会に呼んでもらっています。綾子お母ちゃんも含めて、あの3姉妹はファッションデザイナーの肩書には、もはやおさまっていません。本来、ファッションデザイナーの仕事は、服をつくることではなく、服を通して人を元気にすることです。
ヒロコ姉ちゃんが神戸で車椅子の人のファッションショーを企画しました。出てくる人も、モデルさんではなく、普通のシロウトの人です。これを見ても、ファッションの目的が着飾ることではなく、落ち込んでいる時でも着る人に元気を与えることだと分かります。
3姉妹は、ファッションデザイナーの枠からはみ出たことをたくさんしています。例えば、ジュンコさんは、器や名刺、花火のデザインをしています。一見、ファッションデザイナーと関係ないようですが、実は違います。ファッションデザイナーは、パッションを生み出し、パッションをデザインする人です。
本質的には「パッション・デザイナー」なのです。私の演出の仕事も、コシノ家と同じDNAとして、まったくご同業にいるんだなと分かります。
上司が部下に対して「元気を出せ。頑張れ」と言えば言うほど、部下は「頑張っているのに分かってくれない」という気持ちになります。大切なのは、なんとなく「頑張りたいな」という気持ちにさせることです。
サッカーで、ハーフタイムの間に選手が監督の言葉に感激して、後半は泣きながら出てくることがあります。上司の役割は、部下を感激させることです。「頑張れ」と言わなくても、頑張りたくなるような空気をつくるのです。
すぐれたカメラマンは、「笑ってください」と言わなくても、モデルさんが勝手に笑ってしまうようなことをしています。それが演出です。
演出は、自分に対してだけではなく、相手に対してすることでもあるのです。パッションを盛り上げることが、演出なのです。
著者プロフィール:中谷彰宏・作家
1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。
【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー、ワークショップ活動を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気づきを促す、全員参加の体験型講義。
著作は、『自己演出力』(大和出版)など、1070冊を超す。
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