パーパス駆動型経営は“Nice to Have”ではない 〜求心力経営と遠心力経営をつなぐ不動点〜:視点(2/2 ページ)
企業は何のために存在するのか? 社会より自社の持続可能性を優先する企業は、市場から退場を迫られている。
事実、米国では同世代の7割が、「社会とのつながり」を人生の最優先事項にあげ、大卒ミレニアルの94%が、「情熱を注ぐべき対象」について常に自問自答しているという。企業がその対象と見なされなければ、社員は躊躇(ちゅうちょ)なく退職する。日本でも、このことを実感する経営者は少なくないはずだ。
求心力経営の要として
マーケティング用語に端を発する「エンゲージメント」。近年、「社員が組織に愛着を感じ、企業とともに成長しあう関係性」を表す指標として、人事分野でも活用されている。エンゲージメントと営業利益率や労働生産性には正の相関が見られるという。幸福度の高い社員の生産性は 3割高く、創造性は 3倍高い、ともいわれる。
“ソニーという会社を長期的に持続可能にするには、われわれの存在意義を定義し、社員と共有することが重要だ”(吉田 CEO)。企業業績向上には、有能な人材を引き付け、その能力を最大限発揮させる求心力が不可欠だが、その求心力の源こそパーパス。パーパスは見せかけの CSRやきれいごとではない。企業経営そのものだ。
遠心力経営の要として
平成の 30年間を振り返ると、日本企業は二度の大きな荒波に飲まれた。第一は不動産バブル崩壊。金融不況が非金融企業に飛び火、大型倒産が相次ぎ、倒産負債総額 10兆円超えは2003年まで続いた。第二はグローバリゼーションと中台韓の台頭。半導体・電機業界がこの荒波に飲まれた。そして令和。デジタル・ディスラプターが事業モデルを一変させる VUCA (注2) の時代。自社単独の力だけで戦える時代はとうに過ぎ、同業他社や異業種との連携、スタートアップとのオープンイノベーションなど、企業間共創力、遠心力が必要だ。
※注2:Volatility (変動性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity (複雑性)、Ambiguity (曖昧性)
この状況を擬人化してみる。 異業種交流会に頻繁に顔を出し、名刺交換にも積極的だが 「内なる想い」 を感じないヒト。 そんなヒトと交流したいと思えるか。 企業も同様。 売上 ・ 利益目標は連呼するが、パーパスを感じない企業。 そんな企業と共創したいと思えるか。 パーパスは企業間 「共創」 の着火剤。 第三の荒波を乗り越え、遠心力を効かせてハンマーを投げるにはパーパスの(再)定義が欠かせない。(図A2参照)
Make Society Rich
日本のGDPをはるかに上回る7.4兆ドルの資産総額を誇る、世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクが、毎年1月に投資先企業経営者に宛てて送付するレターが、2年前、ビジネス界の話題をさらった。 “To prosper over time, every company must not only deliver financial performance, but also show how it makes a positive contribution to society.”(持続的繁栄のため、全ての企業は、財務業績向上だけでなく、どう社会に貢献するのか示さなければいけない)。
翌2019年のレターでも、利益の追求とパーパスの不可分な関係を強調、2020年のレターでは、ESG(注3)投資の強化と気候変動リスクを始めとするESG全般に関する情報開示を怠った企業に対する反対票行使を名言した。
※注3:環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)
自社利益の追求から、社会利益との両立へ。「こうなりたい」から、「こうありたい」 へ。 令和新時代を、求心力経営と遠心力経営をつなぐ不動点確立のきっかけとし、日本企業が第三の荒波を乗り越えることを切望する。
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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