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組織は「言葉」から変わるビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

今こそ、悪しき日本型雇用システムを見直すきっかけに。

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 とある企業では「こんな中だからこそ必要とされるので働こう」と掲げたり、とある企業では「ハードワークを通じた自己成長」をプライオリティ高く掲げたりする企業もあった。正しい判断をするために経営の優先順位を、メッセージの発信側はこの機会に改めて深くかつスピーディーに考え直さなくてはならない。

 そして、この経営の優先順位が決まったら、従業員のみならず従業員の家族、協力会社、顧客にまで理解される伝え方で示すことも重要だ。軸が見えないと、全ての行動や発言がブレているように感じられ、不安感を与えてしまうものだ。多少反発があったとしても、経営の優先順位をしっかりと定めてそれを発信することのメリットの方が大きいと私は考える。

 経営の優先順位が決まったら、もう1つは、「社員の意識改革」である。社員一人一人に、組織の存在意義に立ち返って、自分は何をすべきかを改めて考え直してもらうことだ。ニューノーマルなどといわれるようなこの状況は、明確な答えのようなものが存在しなくなってきている。むしろ、現場にこそ、活路がある。先に挙げた3タイプの人材の意識改革をして、一人一人が自律的に考えて、デジタルをフル活用して動く必要がある。まさに経団連が掲げたエンゲージメントの向上を今、実践すべきである。

取り組みを成功させるために

 すでに過去こうした改革に取り組んできた企業の成功例は数多く存在する。それら成功例の中から導いた方法論を最後に紹介したい。次の図を見てほしい。


浸透フェーズごとの施策の効果度合

 この図は、経営メッセージを従業員に浸透させるための手段をハービーボールの一覧にまとめたものである。施策は大きく2つに分かれていて、従業員の心に訴えかける「エモーショナルな施策」と、日常に仕組みとして組み込む「ファンクショナルな施策」がある。従業員へのメッセージの浸透度合いは、認知→理解→共感→行動→定着→相互理解と段階があるのだが、各施策にはそれぞれの段階で向き不向きがあるため、それをハービーボールで表現している。

 なお、今、多く相談があるのは、ファンクショナルな施策の一番下に置いた「場」に代わる施策である。緊急事態宣言が明けても、三密回避という状況は変わらず、それによって多くの人が密集するイベントを実施することが困難になっている。

 これに代わる最も単純な手段として、「イベントをオンラインで実施する」ことは誰もがまず思い浮かぶ施策だろう。ただ、オンラインでのイベント実施はなかなか一体感を醸成できず、従業員からすれば参加しているフリをして別の仕事を進めてしまうことも容易なため、オンラインイベントにはあまり乗り気ではないという経営者は案外多い。

 そういう場合は、是非ともこの図を俯瞰(ふかん)してみてほしい。オンラインで実施しようとしている目的が例えば経営メッセージの「認知」であれば、それを「広告」に出してみるなど、全く違う他の手段を検討することも可能なはずである。

 いずれにせよ大切なことは、冒頭に述べた通り、従業員の心の機微、つまりインサイトを捉えることである。この図はあくまで一覧ではあるが、自社のインナーブランディングの取り組みを振り返る上では参考になるはずだ。今、発信したいメッセージがある場合は、この図を見て、どの施策ができていて、どの施策ができていないかということを改めて振り返ってほしい。

著者プロフィール:黒田天兵

揚羽 インナーブランディング研究室 室長

青山学院大学国際政治経済学部卒業(哲学専攻)。2009年に揚羽に入社。企業理念の策定から従業員への浸透プランの策定、実施までを行うインナーブランディング事業を立ち上げ、現在も責任者を担う。著書『組織は「言葉」から変わる ストーリーでわかるエンゲージメント入門』朝日新聞出版。


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