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韓国エンタメ業界に学ぶグローバル成功の鍵視点(2/2 ページ)

韓国のエンタメ業界がこれまで以上に世界規模で大成功を遂げているのには、アーティストやタレントの才能、作品性の高さは言うまでもなく、それに加えてエンターテインメントの事業としての成功要因を隅々まで押さえていることが背景に存在する。

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Roland Berger
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D、デジタルによる「パリパリ」なアップデート

 これまで一見アナログな要素が多そうに見える反面、SNSなどのデジタルでファンの反応を的確にキャッチし、韓国ならではの「パリパリ(早く早く)」で常に改善していくモデルが確立されている。実際に韓国では音楽番組の放送中にSNSでの反応をリアルタイムで分析する会社が存在し、それらを活用して今後のプロモーション活動や衣装などを改善するための参考にしている。また、第4次韓流ブームの大きな特徴として、SNSを代表とする巧みなデジタル戦略による世界的なファンエンゲージメントからのブームになったことも挙げられる。実際にBTSの所属事務所のHYBEは、自社のファン交流サイト「Weverse」をかねてより運営し、近年では競合の「V LIVE」をも買収し、ファン向けの自社独自の大規模SNSプラットフォームの構築にも注力している。

E、マルチチャネルでのマネタイズ

 タレント事務所や映像制作会社はコンテンツ制作・配信による収益に止まらず、アパレル・化粧品会社などとのコラボによるPPL(Product Placement:企業とのタイアップで作品中に商品を登場させること)も大きな収益の柱になっている。長年ハリウッド映画が洗練化させてきたPPLの手法を、現在最も取り入れているのが他でもない韓国ドラマである。実際に「愛の不時着」ではジャガー、ショパールなどの多くの企業とタイアップすることで、制作費の約2割の収益を得ており、さらなる大胆な制作費への投資が行えている。

 では、翻って日本のエンタメ業界が近年ではグローバルにおいて韓国に比して後塵を拝してしまったのだろうか。そもそも実写コンテンツにおいて世界進出を積極的に行って来なかったこともあり、そのため有能なタレントが今ではTWICEやNiziUのように韓国へと流出してしまっているのも事実である。また、日本のエンタメ市場の規模が韓国に比べて圧倒的に大きいこともあり、世界進出を行うモチベーションも低く、国内のファン・視聴者だけに特化したコンテンツ制作が染み付いてしまっていることも挙げられる。しかし、日本のエンタメ業界は今後世界進出によって更に他流試合を行わない限りは、国内市場も韓国や他のアジア勢に更に侵食されることが差し迫っており、まさに今その変曲点を迎えていると言えるのではないだろうか。

3、 BTSはエンタメ業界のトヨタ自動車韓国

 エンタメ業界の成功の鍵は、実はこの業界に限った話ではない。日本が世界に誇るトヨタ自動車は、世界で通じる製品(クルマ)を多く作り続け、その国・地域に応じた生産・マーケティング戦略を創業当時からの現場力により徹底的にローカライズされ、近年では新たな価値創出のためデジタル活用も先進的に行っている。つまり、BTSをはじめとする韓国エンタメ業界のプレイヤーもトヨタ自動車のようにグローバルで成功するためにごくまっとうなことを長い年月を経て作り上げてきたとも言える。エンタメ業界に限らず、グローバルでのさらなる成功を狙う日本企業も改めてグローバル戦略の在り方、成功の鍵への充足度を見直す良い機会ではないだろうか。日本全体としてグローバル戦略を改めて見直すことにより産業としての競争力をさらに高められるはずと、ローランド・ベルガーは確信している。

著者プロフィール

呉 昌志(Masashi Go)

ローランド・ベルガー プリンシパル

京都大学経営管理大学院修了。国内大手システムインテグレータを経て現職。モビリティ/デジタル・IT分野を中心にしつつも、近年では国内/海外でのエンタメ業界におけるグローバル戦略などのコンサルティングサービスも同時に展開。また、東京オフィスのエンターテインメント・プラクティスのコアメンバーの1人である。また、2016年より3年間、ローランド・ベルガーソウルオフィスへのトランスファーを経験し、韓国企業との多くのプロジェクト経験を保有するため、韓国事情に最も精通している。


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