未来志向の経営を支援するDX:視点
企業におけるDXとは「データとデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立する」全社的な取り組み。コロナ禍で事業環境が大きく変化する中、その重要性は増している。
DXという機会
企業 におけるDXとは「データとデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立する」全社的な取り組みである。昨今、DXが求められる背景には3つの機会が存在しており、企業はヒト・モノ・カネの観点から変革する機会として捉えている。
1つ目はヒト、顧客価値・ニーズの多様化にどうアプローチするか。これまでの年齢・性別などを基にしたセグメントに対して画一的に訴求していた時代は終わり、今は対個人の価値観・ニーズにどう感動を与えるかが問われている。
2つ目は、モノ、業界構造の抜本的な変化にどう喰らいつくか・又は変化を率いていくか。複合化する顧客のニーズに対して、業種横断的なサービス提供への期待が高まっており、そのためには、より幅広いつながりが必須となっており、この変革に挑戦すべきという機運が高まっている。
最後にカネ、多種多様な進化するテクノロジーを使ってどう価値を産出するか。データ、プラットフォーム、ネットワーキング、自動化、視覚化……とあらゆる側面においてテクノロジーの活用機会が存在。組み合わせられる外部サービスを自社の方向性に合った形で活用することで、桁違いの付加価値を生み出せる企業に変容できる。
これらの機会を背景に、企業がトランスフォーメーションを実現するためには、10年後・20年後にどこを目指すのかという中長期経営ビジョンをゴールとするのがよい。中長期経営ビジョンを社内で共有し、これまで社外と考えていたステークホルダをも巻きこむことが、一丸となった変革の鍵となる。
テクノロジーの位置付け
前述の通り、DXの本質は変革にある。そして、変革は中長期経営ビジョンに描かれる将来像を実現するための手段・道筋であり、アジャイル的にテクノロジーを適用することで、小さい失敗を成功の起点として活用しつつ、これまでにないスピード感でさまざまなステークホルダを巻き込み、成果を創出することが可能となる。
また、テクノロジーの適用にあたっては、ニーズの理解が不可欠となる。ニーズにつなげることができるテクノロジーを選択することで効果を最大化することが可能となる。そのため、DXの実践においては、最新のテクノロジーを理解していることに加えて、その上で中長期経営ビジョンの裏側にある「経営」「事業」「施策」を熟知し、ニーズ(想い)を深く理解することが必要となる。
DX成功の要諦
以上より、DXの成功に向けて何よりも大事なことは確固たる中長期経営ビジョンを持つことである。未曾有の機会に対して企業がトランスフォーメーションを行う際、テクノロジー活用そのものを目的としてはならない。例えば、顧客データをどう集め・分析し、活用するかということを考えることで、自ずと手段としてのテクノロジーが明らかになる。ビジョンの実現に対して、最適なテクノロジーは何かという手段に関する問いとして考えるべきである。ビジョンにブレがなく、具体的であれば、トランスフォーメーションは正しい方向性に進むことができる。
2つ目に、トランスフォーメーションの中で何が差別化領域で何が標準化領域なのかを切り分けることである。手段としてのデジタルソリューションはネットワーク効果により、組み合わせられる外部サービスを活用することでROIが高くなる。標準化領域はいかに世の中のベストを早期に組み入れるか。その上で、価値提供の要となる差別化領域に時間・コストをかけてライフサイクルコストも加味して、実現方法を検討する取り組みが必要になるだろう。
3つ目にトランスフォーメーションの実行を担っていくインフラとなるDX人材を採用・育成すること。DX人材は外部パートナーのケイパビリティを理解、議論できる相手を探すネットワークを保有、発注時にはクオリティコントロールができる。また、社内に対しては社内データの把握・示唆抽出を行い、ソリューションを構想、機動力を持って開発を推進できる力を有する人材。トランスフォーメーションの現場ではこのような人材が不可欠。採用・育成していくには相応の期間とコストがかかるため、早期に手を打ち始めることが重要である。(図A参照)
このように、DXは企業にとって既存の競争環境を覆し、指数関数的成長を成し遂げる機会を提供するものである。最初のステップとして、まず自社はどこに向かうのかという中長期経営ビジョンを明確にすることが重要であり、そのビジョンがステークホルダを熱狂させる熱量を帯びている必要がある。ローランド・ベルガーでは、多様な業界への長きに亘るコンサルティング経験とデジタルな取り組みも交えたトランスフォーメーションの伴走実績を通じ、今後に向けた最適なご提言ができることと確信している。
著者プロフィール
横山 浩実(Hiromi Yokoyama)
ローランド・ベルガー プリンシパル
東京大学大学院工学系研究科修了。米系会計系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社等を経て現職。内閣官房IT総合戦略室にてIT戦略調整官としても勤務。公共業界、IT分野を中心に、デジタル事業戦略、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入など多岐にわたるコンサルティングプロジェクトに従事。
著者プロフィール
西山 和希(Kazuki Nishiyama)
ローランド・ベルガー プロジェクトマネージャー
早稲田大学卒、バージニア大学経営大学院卒。米系投資銀行を経てローランド・ベルガーに参画し、東京にて日本企業の成長を支援。DX、全社戦略、組織改革やM&Aなど、幅広いプロジェクトを手掛ける。
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