おとなの学び方のコツは、プライドを捨て、素直になり、愚直になること――マンガ家 すがやみつる氏:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
人生100年時代を迎え、特に40〜60代の大人の学びが注目されている。2019年には専門職大学がスタートし、2022年4月現在、日本全国で19校に広がっている。いま大人の学びが注目される理由とは。
高齢者でも学び続けられるのは知らないことへの興味
高齢でも好成績を収める秘訣は、暗記を諦めることである。例えば、授業で動画を見ながらメモやノートをとってもすぐに忘れる。そこで記憶力はコンピュータとネットに任せ、とにかく検索エンジンとデータベースを使い倒すことにした。特にデータベースは重要で、大学の図書館のサイトを通じて、新聞検索、論文検索、百科事典などを活用した。
「特に新聞記事の検索データベースは役立ちました。クラウド上に第2の脳があり、インターネットでつながっているイメージです。そのため停電になると記憶がなくなってしまいます(笑い)。上野千鶴子さんの『情報生産者になる』という書籍には、研究をして論文を書く、極めてまっとうな方法が書かれています。情報を集め、精査して、分析し、それをいかにアウトプットするかが紹介されています」(すがや氏)
研究には、量的な研究と質的な研究がある。例えば、量的な研究は数百人にアンケートを取り、その結果を統計分析するような研究で、質的な研究は、インタビューをして、それをテキストに起こし、テキストマイニングなどで分析する研究である。共通なのは、どちらも分析結果を考察し、論文にすることである。小中高校では学びの結果がテストだが、大学では論文が学びの結果になることが最大の相違点である。
「大学では、答えがない分野で答えを導き出し、調べたことをアウトプットしなければなりません。私自身は、イラストレーションを教える教員でしたが、絵が描ければいいのではなく、プレゼンテーションを多く取り入れていました。そのため“すがや先生の授業は、ペンよりマイクを持っている授業が多かった”とも言われました。しかし卒業生からは社会人になって“プレゼンテーションが大いに役に立っている”と感謝されています」(すがや氏)。
高齢者でも学び続けられる理由は、知らないことへの興味である。2017年、81歳でiPhoneアプリを開発した、若宮正子さんがテレビCMで“バットは降らなきゃ当たらない”と言っている。同じように、新しいことはやってみようかなと思っているだけでなく、やってみることが重要だ。行動しなければ、何も始まらない。
「大学院の修士課程で、Pythonによるプログラミングを学びました。分からないことだらけで、頭がくらくらしたので、Twitterでつぶやいたところ、若い人たちが助けてくれました。このことからも、初心者は変なプライドは捨て、若い人にも謙虚に教えを乞うべきです。プログラミングでは、『こんにちは統計学』というWebサイトを作って公開したのですが、いまも元気に動いていて、多くの人に利用されています」(すがや氏)。
教え方では、運動、認知、態度の3つのスキルが重要
「自分が教える立場になって、教え方にもうまい、へたがあることに気が付きました。大学では、学生が理解できないのは教え方が悪いからです。ただやみくもに教えるのではなく、学生の個性にあわせて教えることも必要です。また学ぶべき目的、目標ごとに教え方も変わります。1955年に発表されたベンジャミン・ブルームのタキソノミー(分類学)は学び方ですが、これをひっくり返せば教え方が見えてきます」(すがや氏)。
タキソノミー(分類学)は、教育目標には以下の3つの分類があるという考え方です。
(1)精神運動的領域(物理的な動作)
運動:身体の器官を使うことで、例えば自転車の乗り方を学ぶときのように反復繰り返しによって上達し、上達に伴って使う言葉が減っていきます。科目としては、体育や音楽、美術などです。
(2)認知的領域(知識と思考)
認知:頭を使う(考える)ことで、記憶能力や問題解決能力、読み書き能力などで上達し、上達に伴って使う言葉が増えます。科目としては、国語や数学、社会、理科などです。
(3)情意的領域(感情と態度)
態度:やる気を出すことで、モチベーションや決断力をつけることです。
この3つの教育目標の分類は、マンガ教育にもあてはまる。運動は作画技術で、模倣→巧妙化→精密化→分節化→自然化と、反復練習によって上達する。認知はアイデア、ストーリーで、知識→理解→応用→分析→統合→評価と、データを仕入れ、分類し、精査する。態度は締め切りを守る、高みをめざすこと。仲間の存在意義は独学では得られないものが得られることで、学校やSNS、同人誌なども同じでだ。
「有名な“ときわ荘”に集まったマンガ家たちは、それぞれの作品の批評をするのではなく、ただそこに一緒にいるだけでモチベーションの向上につながっていました。これにより、ここに集まったマンガ家たちは、日本を代表するマンガ家になりました。大学やSNS、同人誌なども同じで、現代のときわ荘といえるかもしれません。そこで、この考えに“ときわ荘効果”という名前を付けました」(すがや氏)。
講演のまとめとしてすがや氏は、「繰り返しになりますが、反復繰り返しの運動スキル、読んで書く認知スキル、仲間を作る情意(態度)スキルの3つのスキルが重要になります。こうしたことを意識して、大学で教えていました。教え方の参考書としては、向後千春先生の書籍が有効なので、興味があれば検索してみてください。ちなみに、私の新刊も出ていますので、よろしくお願いいたします(笑い)」と話し講演を終えた。
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