第5回 ドラッカー「上司に求められるリーダーシップ」:ドラッカーに学ぶ「部下を動かそうとする考えは時代遅れ」(2/2 ページ)
リーダーシップそのものが目的でもなければ、リーダーシップは良いものでも悪いものでもなく、大事なことは、何のためのリーダーシップか、ということだ。
宮端さんは最近社長になったばかり。4年も赤字を放っておいたのは、前任の社長であって宮端さんではない。しかし、宮端さんは、椅子から立ち上がり、こう言って頭を下げた。「申し訳ない。心からおわびをする。皆さんをもう二度とこんなに辛く、悲しい気持ちにさせないと約束する。だから、今回は、はとバスのために一緒に頑張ってくれないか」
宮端さんにしてみれば、「赤字をつくったのは私じゃないよ。前任の社長だよ」という思いがあったかもしれない。しかし、そんな言い訳を一切口にすることなく、ただただ従業員に頭を下げた。言い訳をしない─。これが、リーダーに求められる能力だ。
自分を仕事の下におく
第四が、仕事の重要性に比べて、
自分などとるに足りないことを認識することである。
リーダーたる者は自らを仕事の下におかなければならない。
これまた当たり前のことである。
ピーター・ドラッカー
仕事の重要性に比べて、自分などとるに足りないことを認識するとは、お客さまのことだけを考えるということだ。病院に例えれば、患者さんにとって良いことだけを考えるということだ。ドラッカーはある病院で実際にあったことを次のように紹介している。
会議で十分に話し合った結果、あることが決まりそうになると、“それは患者さんにとって一番良いことか”と必ず聞く看護師さんがいた。その看護師さんが看護する病棟の患者さんの回復は早かった。その看護師さんが引退してもなお、「それは患者さんにとって一番良いことか」という基準で、物事を考えることが当たり前になっている。
会議で何かを決めるときに、“それはお客さまにとって一番良いことか”と必ず問う企業がどれだけあるだろうか。常に、自分たちの事情に引っ張られ、内側のもめ事に関心が向いていないだろうか。
使命感に立つ
「大津波警報が発令されました! 高台に避難してくださーい」
その日、何度も何度も、そう叫ぶ防災無線の叫び声が、大勢の命を救った。その声の主は、防災対策庁危機管理課の職員である遠藤未希さんだ。3月11日午後2時46分、宮城県南三陸町の防災対策庁の2階にある放送室に駆け込み、防災無線のマイクを握った。恐ろしい勢いで近づいてくる津波は、遠藤さんがいる庁舎にも、容赦なく迫ってきた。
大勢の人は、波の大きさと勢いを見て、震え上がった。しかし、遠藤さんは怯むことなく、「一人の犠牲者も出してなるものか」との強い使命感に立ち、最後の最後まで叫び続けた。「逃げてくださーい」「6メートルの津波が予想されます」「逃げてくださーい」「異常な潮の引き方です」「早く逃げてくださーい」
津波のあと、屋上で10人の生存者が発見された。しかし、そこに遠藤さんの姿はなかった。その地域には、約1万7700人の住民が住んでいた。その半数近くが遠藤さんのおかげで避難することができた。遠藤さんは、果たすべき職責を全うした。
遠藤さんに感謝し、遠藤さんの仕事に対する姿勢を学びつつ、自分自身も遠藤さんのように、「仕事の重要性に比べて、自分などとるに足りないことを認識し、自らを仕事の下におくことのできる人間でありたい」と思う。遠藤さんのご冥福を祈りつつ。合掌
上司が示すリーダーシップ
起業する人が圧倒的に増えたとはいえ、いまだビジネスパーソンの大多数が企業の1人として仕事をしている。企業とは評価の世界である。評価の世界の中にあって人は、保身に走る。誰もが生活がかかっている。保身になって当然だ。
しかし、自分を仕事の下におき、仕事の重要性に比べて自分などとるに足りないことを認識し、使命感と信念をもって仕事にあたる私たちであり続けたい。
著者プロフィール:山下淳一郎 ドラッカー専門の経営チームコンサルタント
ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント
東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。
著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。
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